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メガネの奥にしおりをはさみました!
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メガネの奥
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「はー、らしくないなー」
神様の執務室に向かって歩く廊下の途中、角を曲がりかけていた時に、その声は聞こえた。
普段飄々と過ごしているあの方からは想像もできない、弱々しい声。
私ごときがそんな姿を見てはいけない。
そう思うのに、とめられない。弱味を握ろうとかそんな訳ではない。
ただ、どんな顔をしているのか気になっただけ。
しかしここで出ていったら、貴方は精一杯取り繕おうとするのでしょう。
▽
父が戦天使課の課長だった。
幼い頃、父に連れられて何度か訪れたことのある神官庁最上階の執務室。
そこにはいつも、私と同じくらいの小さな男の子がいた。彼はすごく物知りで、花や鳥の名前、言語、歴史、全てを知っていた。
そう何度もあった訳ではないが、私はその少年に、憧れを抱くようになっていた。
いや、そこには語弊があるかもしれない。
ふとした時に見せる憂いを帯びた表情。世の中のすべてに絶望しきっているかのようなそれに、幼いながらも心を動かされたのだと思う。
神官庁の最上階、執務室。ここに上がれるのは、極わずか。ほんの1握りの人間だけだった。
父の仕事、戦天使課の課長もそのうちの一つだった。
幼い頃から周りの期待がなかった訳では無い。私も実際父様のように戦天使課に入り、課長を目指すものだと信じて疑わなかった。
そこになんの目的も存在しえなかったが。
それが変わった。この人にもう1度会うために、という目的ができた。
周りの天使達が恋愛やら友情やらに絆され脱落していくなか、私はがむしゃらに勉強をした。
周囲からは秀才だと持て囃された。課長も確実だ、と。でも現実はそう甘くなかった。
私の後輩、ルシフ クロスフォードは天才だった。
どんなレートの魔族も必ず定時までには狩ってくる。血の天使という二つ名がつくほど恐れられ、独り、実績を伸ばしていった。
時期課長が決まる頃、彼は突然姿を消した。噂によれば堕天したのだと。
そうしていつも2番手だった私が、念願の課長の座についた。
プライドが傷つかないわけがない。自分はいつまでも二番煎じだと、ミカ課長と呼ばれる度に思い知らされるようで、屈辱だった。
長い時間がかかってしまったが、ようやくあの彼に会える。それだけが、当時の私の唯一の心の救いだった。
そうして私は現実を知った。
あの少年が、私が仕える主様なのだと。そしてそこには、あの少年時代の面影は全く存在しないのだと。
私の憧れだった少年は、あの頃からは想像もできないほどふわふわと、雲のように掴みどころのない青年になっていた。
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