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74にしおりをはさみました!
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74
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俺は出勤すると いつものように 荷捌きをして 簡単な 班内の ミーティングをして 配達に出掛けた。
あの発泡スチロールの箱 俺は常温配達の車だから 保冷車担当の部下に依託するのが 良いんだろうけど 居ないかもしれない処に無駄足させるのも 可哀想だし。
元々常温扱いの荷物だったからなぁ。俺が 本社とあっちの営業所でも担当だ ってなってるし。俺が内容物を考えて 冷蔵庫保管にしてるけど。
何で居ないのかなぁ。週末は俺出勤だったから 土日も配達に行ったんだけど 日中留守だったからなぁ。
確か大学生って言ってたよなぁ。
地方から出てきて 大学に通って もしかしたら アルバイトで忙しいのかな?
学校が忙しいのかな?真夜中に帰って来るなら 再配達する時間帯には間に合わないからなぁ。でも 何で居ないのかなぁ。受け取るだけなんだから。金も要らないし 送り主がお父さんだってわかってる筈だよな。
具合悪いのかな?電話も出来ないほど具合悪かったら メモを取ってないよな。再配達のメモ ドアの隙間に挟んだヤツは無くなっているしなぁ。
朝 近くを通ったら 灯りが消えていたから 生きているよな。日中灯り点いているって 朝家を出る時消し忘れたのかな。帰って来た時 暗いのが嫌だから点けとくのかな。
とにかく 不思議な住人だな。
男だから ものぐさ なのかな?
午前中の配達を全部終えて 問題の息子の家の前を通ると。
おおっ!洗濯物が 窓越しに見える!
人影がっ!
居るぞ!居るぞ!
ピンポーン。
こんこん。ピンポーン ピンポーン。
ガチャ
ドアが開いた。
「ごめんください。〇〇運送で………」
若い男がドアを開け 俺の顔を見た途端 びっくりした顔で ちーちゃんと呟き 一瞬固まり 最後までいう前に ドアを 閉めようとした。
? ! ?
なんだ?ちーちゃん?ちーちゃん?
俺は とっさにドアが閉まる直前に脚を差し込んで ドアを止めた。
「おいっ 待て! 閉めるな!」
相手は 一瞬閉めようとしたドアを 又 開いて なんと!
そこに 土下座した。
今度はなんだ?何故?
土下座って何?
とりあえず 仕事の話をしなくちゃ。
「乱暴な言い方して すいません。俺 〇〇運送の山手です。今持ってきて無いけど お荷物が あるんですよ。顔を上げてください。再配達のメモ読まれましたか?
あのー あとで 持って来ますから 今度は受け取ってください。
あのーとにかく 顔を上げてください。」
まずいよな。
届いて無いって クレーム来て 営業所から本社 そして 今の営業所。
その上 これで 俺が脅かして お客さんに土下座させたって なったら 俺 クビだぜ。
俺 そんなに 怖かったかな?頼むよ 兄ちゃん 土下座やめてくれよ。
すると そいつは
「ちーちゃんだったなんて。俺。
すいません。ちーちゃん。許してください。
ちーちゃん。俺です。俺、わかりませんか?」
と顔を上げた その男は。
えーと あんた 誰?
キョトンとした俺に そいつが
「ちーちゃん。俺のこと 覚えていませんか?山梨の自然の家で アルバイトでお世話になった。高田さんの後輩っす。俺も あそこでバイトしまして。ちーちゃんに 車で送ってもらって。」
「アルバイト?高田?
あーキクと結婚した高田?あーあいつの後輩?あー そー言えば なんか いつも高田と一緒に居た。あいつがお前?
あー なんか思い出してきた。
まぁとにかく土下座は止めようや。」
「はい。あの 汚いとこですが あがってください。俺 ちーちゃんに 顔向け出来なくて。
そーか 親父からの 荷物を配達してくれてたの ちーちゃんだったんすね。
まぁ どうぞ 入ってください。」
仕事中だが 何か事情があるんだろう。仕方ないので 家にあがることにした。
「それでよ 何で居なかったのよ?」
「はい。すいません。俺 実は大学院に行ってたんですけど。去年の夏に辞めちゃって。学費 使い込んでるんです。親からの仕送りを生活費にして。
あ それで 今は 或会社に派遣で入っていて。営業やってます。
それから ちーちゃんに 借りてる金。必ず返します。すいません。」
えっ?金?金貸したっけ?
「4年前 山でバイトしたとき ちーちゃんが 山に高田さんと一緒に車で 連れて来てくれて。でも俺 実家に帰らなくちゃならなくなって。でもバイトまだしてないから、金無くて。そのとき ちーちゃん3万円 貸してくれたんすよ。そのあと 返さなくちゃ返さなくちゃ って。
でも金無くて。俺 親父からギリギリこのマンション代と光熱費 食費3万しか仕送りしてもらってなくて。
足りないんすよ。親父には携帯も持ってない ってことになってて。でもイマドキ スマホは当たり前で。
それからバイトするようになって。
そしたら 大学成績落ちて。
院に行ったら 時間がめちゃくちゃ 無くて。でも遊ぶ金も欲しいし。
だから 親父から 経済的にも自立しようとして。今セールスマンとして働いているんです。
会社は水曜休みなんです。朝は まぁまぁだけど 帰りはめちゃめちゃ 遅いんです。日付変わってから帰って来ることもあって。
親父からの荷物すいません。
でも 受けとったら 電話しなくちゃなんないし。そしたら 大学院辞めたこと言わなきゃだし。
親父はね 院卒業すれば 箔が着くって思ってるんです。そして会社の親父の跡を継ぐって思ってるんです。
俺 親父の会社継ぎたくないんです。
親父の会社っていっても たいした会社じゃあ無いんすよ。プラスチック加工の工場で作った物を通販しているみたいなちっぽけな会社です。
重ね重ね 何回も来てもらってすいません。今日は居ます。」
「そうかよ。
貸した金は 要らねー。
でもな 親父さんだって心配してるんだぞ。ナマモノなんだよ。腐ってないとは 思うけど 午後一番で 持って来るからよ。
そして学歴の無い俺が言うのもなんだけど 大学は卒業したんだろ?
仕事だって遅かれ早かれ いずれしなくちゃなんねーし。ちっと早くなったって思えばいいんじゃねーか?
無責任か?でも 学校にもう行きたくないんだろう?
行きたいなら 休学って出来るんだろう?休学したの?それとも 退学したの?」
「いや 退学しました。休学でも 学費十万ちょっと半年ごとに 払うんです。」
「じゃあ もう 大学だか 大学院だかに、いかないの決定だろうに。じたばたしても 問題を先送りしているだけだろう。
親子なんだから きちっと話せば いいんじゃね?
学歴社会の世の中だけど お前 そんなに夜遅くまで 働いているなら 金稼ぐことが いかに大変か わかったんじゃねーの?営業だか セールスマンだか 知らねーけど。金を稼ぐ辛さ分かったんじゃねーの?
特に営業なら 本当は違うのに 頭下げなきゃならねー。
上からは
或上司は右向け 違う上司には左向け って言われた通りしても なんで右向くんだ なんで左向くんだ?って怒られて。
客が悪くても 客が違うって言えば こっちが申し訳ありませんって しなくちゃならねーし。自分の責任じゃ無いのに 四方八方から責められて 悪くないのに 頭を下げて。そのくせ 陰の努力は誰も分かってくれない。
すごく つらいよな。」
すると そいつは 泣き出してしまった。
「そうなんですよ。ぐすん。
成績 上げれば 褒められるけど 客のわがままで クレームきたりキャンセル喰らえば 俺が 悪いの一点張りで。理由も聞いてもらえない。
一回 売上達成すれぱ 来月にはノルマが上がる。やっとこノルマを達成すれば 来月には更に上がる。ノルマを達成できなきゃ クソミソに言われる。人間以下みたいな言われ方っす。」
「去年の夏からってことは もう半年以上か。」
「異常な会社っすよね。」
「いや よくわかんねーけど。営業とか セールスマンって ある程度そんなもんじゃねーの?ブラックって言われる会社だって沢山あるよ。責任持たされて いい気になってると 自分にすべてしわ寄せが来るとか 先輩が皆 馬車馬みたいに 働いて お先に なんて言えなくて 残業残業のループに嵌まるとか。
仕事が 解って来ると 時間や日にちの期限 売上の達成が 理解出来るから ここで止められないって解ってくるよな。止めたら 今までの努力や時間すべて 水の泡って解るから 無理しちまう。
そうならない為に 夢中になって 働く。良いことか 悪いことか わからねぇけど。会社は喜ぶよ。そして 昇進すりゃ やりがいも 出来る。
その兼ね合いだよな。
でもな
会社とか 組織とか 離れちまえば 自分が居なくたって 回るもんなんだよ。自分が居なくたって 会社は潰れない。
例えば インフルエンザでも良い。いや悪い例えだけど 怪我でもして入院したら?
会社潰れるか?
機能が止まるか?
注文が上がらないか?
製品化出来ないか?
客が寄り付かないか?
流通が止まるか?
ノルマ達成出来ないから って上司が意識不明の社員を揺り起こすか?
同行する筈だからって上司がベッドの絶対安静の社員を連れて行くか?
それを考えれば 力をたまに 抜けるんだよね。
たまに 自分の周りを見て 自分を取り戻してさ 又仕事に取り組めるし 無理なら別の仕事を 探したって良いんだよ。
仕事に呑まれちゃいけないけど、働かないと 食っていけないからな。金を沢山貰いたいなら 辛いことばっかりだよ。
お前 セールスマン向いてるって思えば 少し続ければ良いんだよ。だけど 泣くほど辛いなら辞めちまえ。でも 金を稼ぐって楽なことばっかりだと思わねぇ方が良い。
俺もさ 高卒で ろくな高校じゃなかったから 悔しい思いいっぱいしたよ。
アルバイトもそりゃあ 色々したよ。怒鳴られて 時には 蹴飛ばされて。わざとじゃ 無いけど 商品全部駄目にして 殴られたりもしたよ。
お前 親父さんの会社ちっぽけだ って さっき 言ったけど。お前そのちっぽけな会社のお陰で 学校行けたんだろう?マンションの金払ってもらってるんだろう?
立派な仕事じゃん。それだけの金 出せるんだから。」
「はい。すいません。働いて 少しは金のありがたみ わかりました。だから 高田さんから ちーちゃんが引っ越して 引っ越し先の住所も聞いてたんすけど。金を返そう返そうって 最近益々 気になって。
そしたら ちーちゃんが表れたんで。俺 返せって ちーちゃんが怒って 家に来たのかって 思って。まずいよな って。思わず ドアを閉めちゃいました。すいません。」
「いや 俺も乱暴な言い方して悪かったな。でもさ 親父さん居るだけでも 幸せだぞ。俺なんか 小学校ん時 父一人俺一人の家庭でさ 親父が交通事故で 死んじまってさ。父親の方の 婆さんに引き取られてさ。高校入って暫くしたら 婆さん死んじまってさ。
金は多少あったけど。ヤンキーやってた俺に保証人なんか居ねーし。まともな就職口なんかあるわけねーし。無我夢中で金だけは稼いだよ。今の運送会社で長年バイトから始めてさ。社員になったけど。
でもさ 世の中 悪いことばっかりじゃあねーぞ。
お前さ 彼女居ねーの?
大事な人が出来ればさ 何だって 頑張れるよ。
恋せよ 青年。
あはは。
肩の力を抜いてな。
午後に又 来るよ。
飯 食えよ。
な。」
そう言って 俺は 後輩の家を あとにしたのだった。
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