アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
理由にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
理由
-
「ハァハァ・・・・・・ゲホッ・・・・ハァハァ」
「死にたいか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「有無」
「平気・・・・・・」
元々短距離の僕はスタミナがない
毎日毎日、僕達は走らされていた
走り込む意味があるのだろうかと何度も考えながら走った
ランナーズハイなんてなれないほどね
「遅い!」
「はい」
しかもスピードを出して走るからすごく辛い
皆無は長距離には慣れているけど、スピードには慣れていない
「よし、今日はここまで」
この瞬間が今は一番幸せかも知れない
「皆無、立てる?」
「うん・・・・・大丈夫」
二人で倒れながら空を見つめた
「夕陽が綺麗だね」
「うん・・・・綺麗」
僕達は二人で暮らしていた
両親はいない
莫大な遺産を残して事故で死んだ
何もやる事の無い僕達は、毎日退屈な日々を送っていた
毎日が退屈でつまらない
生きている意味すらわからない
勉強も常にトップ
スポーツもそう
1年上の皆無も同じ
何が楽しくて、何が悲しいのかもわからない
友達もいない
面倒臭いだけだから
僕には皆無がいればそれでいい
そんな僕達を陸上部に誘ったのが今の監督だった
突然、学園に現れた人だった
部活とかどうでもよかったけど、暇潰しにはなるかと思い入部した
何が楽しくてみんな走っているのかもわからない
僕達は言われたから走っているだけ
寝ないで走れと言われればそれに従うだけ
毎日生きているだけの僕達だった
でも、あの大会で彼を見てしまった
白いジャージが羽のように舞う瞬間、光が見えた
きっと皆無にも見えたはず
たった一度のジャンプで、観客を魅了したあの姿を今でも忘れてはいない
優勝とは違う歓声を初めて聞いた
何度も見慣れている白いテープ
それを切るのが当たり前だと思っていた
だからそれを切る瞬間の歓声とは違うと感じた
「帰ろうか」
「うん」
僕達はいつも支えあって生きて来た
皆無が差し出した手を握りしめ、夕陽の中を二人で歩いた
迎えの車に乗りながら、ぼんやり窓の外を見つめていた
面白くない風景
色の無い景色
「あっ・・・・」
「どうしたの?有無」
「あそこ」
「・・・・・・・・・・・・・・彼だね」
「うん」
何をしているんだろう
座り込んでいるけど
「あっ、有無様!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
最初は単なる好奇心
それだけ
「・・・・・・・・・・・・・・会うのは2回目だね、天才兄弟」
「・・・・・・・・・・・・・・・転んだの?」
「あーー、まぁそんな感じ」
「どうして起き上がらないの?」
「ん~~、理由があってさ」
「理由?」
「と言うか、筋肉のつき方がハイジャン向きになって来たな・・・・さすがだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ハイジャン?
でも、僕達は何もしていない
「お前、弟だよな・・・スタミナがないだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そして兄のお前には瞬発力がない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
当たりだった
でも、悔しいとは思わない
だって、彼は天才と呼べる唯一の人間として僕達は認めているから
「僕は有無」
「僕は皆無」
「俺は・・・・知ってるか」
「うん」
「そっか・・・・・・」
座り込みながらそんな会話をする翔
どうして立たないんだろう
「手を貸す?」
「あー、ん~~」
「怪我をしたの?」
「いや・・・・・」
「一人?」
「だな、燕羽は昨日から風邪で寝込んでる」
「迎えは?」
「歩いて帰るだけだし、俺一人だから必要ない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
足を庇ってるみたいだけど
「足を怪我した・・・・・・えっ?」
驚いた
膝から下の感触が皮膚では無い
これは・・・・・・・
「ばれた?実はこの義足は予備でさ、長時間使うと足がね・・・・今日の体育はマラソンで、無理しすぎた」
義足?
その足であの高さを跳んだの?
「車へ」
「いいよ」
「皆無も手伝って」
「うん」
無理矢理車に運び、制服のズボンをめくると血が滲んでいた
「病院へ」
「マジでそれはいいから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「有無、どうすればいいか聞くべきかも」
「そうだね・・・・どうすればいい?」
「どうしようかな・・・・・・でも、我慢すれば帰れるからさ」
「じゃ、送る」
「あ~~、いや」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「心配かけたくないんだ」
「じゃ、家で手当てをしてから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「出して」
「かしこまりました」
「サンキュー、助かったよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・同じ顔」
突然、皆無が言った
何の事だろう
「あそこに同じ顔」
皆無の見ている視線を追うと、同じ顔の広告が見えた
「モデルは今は休業中だからさ、てか本業でもないし」
「女の子?」
「はい?」
「口紅の・・・・」
「いやいや!男だから!」
「そうなんだ」
胸も無いし男なんだろう
でも、綺麗な顔
そのまま屋敷に連れて行き、手当てをした
本当に義足だったんだ
外した所がすれて血が滲んでいた
「消毒」
「そうだね」
「いって!!!いでででっ!!!」
「我慢」
「うん」
「待て!マジで痛すぎ!!」
「擦り傷が地味に一番痛いよね」
「そうだね」
「そうだけどっ!!真顔で真剣に話すな!」
この人、何だか面白い
「泣いてるの?」
「泣いてるね」
「痛いからなっ!」
「包帯巻いたら入らないね」
「そうだね」
「ごめん、少しこのままでもいいかな?」
「うん」
「うん」
「サンキュー」
「聞いてもいい?」
「なんだ?」
「子供の頃にもらった長靴をはいたらこうなるの?」
「はい?」
「どうなの?」
「あー、はいた事無いのか?」
「大きすぎて」
「成程ね」
「それに、サンタさんが来たのは4歳までだったから」
「えっ?」
「それから僕と皆無は二人で生きて来た」
「そっか・・・・・じゃ、残念な結論な」
「うん」
「あの長靴は、つま先まで足は入らないから無理だな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「オッケー?」
「うん」
「うん」
そうだったんだ
初めて知った
「着替えてくるからそこに居て」
「動かないで」
「わかったよ」
僕達は翔をリビングに残し、着替える為に部屋に向かった
でも・・・・・・どうして片足で跳べたんだろう
もし、彼が選手として出場したら絶対勝てないと感じた
そして変な安堵を感じながら部屋を出た
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
83 / 307