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【恋人にリンゴを】はっぴーばーすでーにしおりをはさみました!
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【恋人にリンゴを】はっぴーばーすでー
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●悟の場合:レナード視点
今日は悟の誕生日だ。
悟はあまり豪華にすると嫌がるから、こっそり焼き菓子で有名な店のアップルパイを買って帰ろうと計画している。
この計画は失敗が許されない。だから、自らが出向くと店に行こうとすると、ダリウスから「仕事が溜まっているのに、何を考えてるんだ」と怒られた。ということで、店にはダリウスが向かっている。
しかし、俺は不安でしかなかった。ダリウスのことを信頼していないというわけではないが、やはり自分で行動してないだけ不安だ。もう一度言うが、この計画は失敗が許されないのだ。
なかなか仕事に手がつかない俺は携帯を手にする。電話するのは、勿論ダリウスへだ。
『……はいっ、ちゃんと並んで買って帰りますから、何度も電話をしないで、目の前の仕事を片付けてくれませんか!? 今日は早く帰るんだろ!』
ツー、ツー……。
すぐ出たダリウスだが、一方的に怒鳴られ、電話を切られてしまった。俺は眉を寄せて携帯の画面を見る。
ダリウスはサトルとの件があってから、さらにばっさり斬るように発言するようになったと思う。先程の電話の声から、かなりイライラしている様子だ。これは帰ってきて仕事が進んでなかったら、だいぶまずいだろう。
目に見えた光景にげんなりしつつ、俺は仕方なく書類に目を通した。
それから、ダリウスが無事にアップルパイを買ってきて、仕事を片付けてから帰宅する。玄関を開けると、サトルが「今日は早いですね」と出迎えてくれた。こういう帰りが早い時のサトルは、滅多に口に出さないが、嬉しいという表情で表してくれるから可愛らしい。挨拶として軽くハグをして、アップルパイの入っている箱をサトルに渡す。
「どうしたんですか、これ。誰かからの頂き物ですか?」
まだ中身を見てないから、そう思うかもしれない。
「……いや、買ってきたんだ。開けてみてくれ」
「レナード様が……?」
二人してリビングへ移動して、サトルが箱を開ける。
すると、ぱあっと一瞬で明るくなる顔。瞳を輝かせて、会えるのを待ち望んでいたよ、と言いたげだ。アップルパイにしか見せたことのないこの顔は本当に可愛いが、俺にも見せてくれればいいのにと思う。
「わあ……美味しそうなアップルパイ! そういえば、このお店って最近話題になっている場所ですよね! でも、どうして?」
なんて、くだらない嫉妬心を抱けば、サトルはこの状況がわかってないようで。なんとなく嫌な予感はしていたが、サトルは自分の誕生日に気づいてないらしい。
「どうしてって……今日が何の日か、わからないのか?」
「え。えっと……」
深く考え出して、俺はもう駄目だと思った。これだと自分の誕生日が出るまで、どれくらいかかることか。
「ああもう。お前の誕生日だろう?」
「え、ああ……そういえば。良かった、レナード様のことで何か忘れているのかと思いました」
「いいや、良くない。祝った気分がしない。やはり、ここは豪勢に……」
祝いたい、と続けようとしたが、サトルは再びアップルパイに目を向けていて、いろんな角度から見たり、くんくんと匂いを嗅いだり、夢中になっているようだった。
……まあ、百歩譲ったとして、サトルが嬉しそうなら良いのだが。
「本当に美味しそう……あとで紅茶をいれますので、一緒に食べましょうね!」
「サトル、あのなあ……」
「覚えてくださってただけでも、生きてて良かったと思えるくらいに嬉しいんです。レナード様にとっては大袈裟かもしれませんが。レナード様、ありがとうございます」
箱の蓋を閉じて、サトルは俺のほうを向く。そう言うサトルの表情は微笑んでいるが、どこか切なく感じて。
Ωだから。価値がないから。もしかすると、以前のサトルは誕生日も忘れたいくらいに、苦しい日だったのかもしれない。
ようやくサトルの意味していることに気づいた俺は、サトルをただ抱き締めたくなった。そして、ただこのことを伝えたかった。
「サトル、誕生日おめでとう。そして……生まれてきてくれて、ありがとう」
今、サトルと一緒にいることが嬉しい。生まれた意味はちゃんとあったんだ。そう伝えたくて。
スーツを握る手と震える身体が儚げで、俺はサトルの存在を噛み締めるように、ぎゅっと腕で包んだ。
End
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