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風雲急を告げられてにしおりをはさみました!
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風雲急を告げられて
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薬を一回飲み忘れるくらいでは、そうそう具合悪くはならない。
朝昼夜と分けているから、量自体は大したことないし、夜の分を飲めばまた血中の薬の濃度はだいたい元どおり。
と、束さんがフォローを入れたけれど、はとちゃんは不安そうで、明らかに落ち着きがなくなっている。
予定外の出来事というものは、結構精神的に来るからな。定時直前に襲来する新たな仕事とか。
俺ははとちゃんの頭を優しく撫でる。
「……じゃ、『あまるていあ』に戻ろうか。デートより、はとちゃんの体調が大事。大丈夫だよ、俺さっきのバス停の名前覚えてるから、帰り道分かるよ」
はとちゃんはうっすら瞳に涙を浮かべている。
「……ごめんね」
「ん、謝るのは具合良くない証拠だな。はとちゃん、俺ははとちゃんのお薬なんでしょ? 手ぇ握って、一緒に帰ろ」
うなずいて、俺の首元にそっと頭を置き、体重を預けてくる。
ちらりと見た束さんは、ファイト、って感じで両手でぐっと握りこぶしを作った。
専門的な知識も、はとちゃんと過ごした時間も、周囲の人たちに比べたら全然、無い。
だけど、それでも、この人にとってのいちばんの支えになってるのは多分、俺だ。
再びの『あまるていあ』。
中に上がり、ふと壁にかかっていたホワイトボードを見る。
はとちゃんの欄には「デート」。
柴さんは「昼から新宿で友人と会う、夕食は向こうで食べるので不要」。
白妙さんは「しゅりはんだかに参加」。
……なにそれ? 何語? 何?
用事連絡の欄じゃないの、これ?
「……今日はみんな、いないよ。女の子たちはおべんきょう、えまくんも病院。ひとりきり……あっ、しゅうとさんいるから、ふたりきりか……」
なんとなく表情が腑抜けている。デートプラン立てて本人なりに頑張って、疲れもあるのかもしれない。それともつなぎで飲んだ頓服薬が効いているのか。
「白妙さんのこれは、何?」
「おてらのあつまり」
「ああ、寺……。やっぱ宗教とか多いのかな、こういう……慈善事業って……」
「病院のなかって、しゅうきょう、はやってるんだよ。ぼく、本、よんだけど、わかんなかった。でも、しゅりはんだかはおしえてもらったよ。ちてきしょうがいのある、おぼうさんでね、おそうじをがんばってさとった、えらい人なの。まねっこして、みんなでまちをおそうじするんだよ」
冷蔵庫から取り出したお茶をコップに注ぎ、それを持ってはとちゃんは自分の部屋のノブを回し、一瞬首をかしげた。
鍵をかけたことを忘れていたらしい。
鍵をかけるのを忘れなかったのに、それを忘れるのかよ。
室内は相変わらずがらんとしている。掃除は行き届いていて、ほこりは見えない。
……掃除で悟れるなら誰も苦労しねえよな。
花瓶の近くに置き忘れられた薬をホッとした表情で手に取り、粒を飲み下す。
口を開けて見せてきて、濡れて糸を引く舌や喉の赤さに、思わず唾液を飲む。
えへへ、と乾いた笑い声を上げ、はとちゃんは薬の袋をくしゃ、と軽く潰した。
「……お薬のむの、わすれちゃうと、ときどき見えたり、きこえたりするの」
何が、と継ぎ足したくなるが、意図するものはもう、分かる。
幻覚や幻聴。
「……はとちゃんの頭は、ほんと……大変だね……」
おでこを指でさすり、口付ける。
薬を飲んでも、症状を抑えるだけ。
この小さい頭をまるごと治してあげたい。
精神的な疾患も、知的障害だって、治せるものなら。
……不憫だ。
ハローキティは分かるけど、他は何のぬいぐるみなのかいまいち分からない。
泣き顔の白うさぎのぬいぐるみをきゅっと抱え、ベッドに腰掛けうつむき安静にしている横顔は、暗い。
相変わらず閉じられたカーテンの隙間から、涙みたいに光が床に散らばって落ちている。
「……デート、楽しかった? ぼくといて、楽しい……?」
「うん。はとちゃんの普段の生活圏が分かって、面白かった。楽しかったよ。もっと、好きになっちゃったな」
自分のベッドだというのに、俺に遠慮してか端の方に座るはとちゃんを、真ん中へと引き寄せる。
「……ぼく、こわいの」
視線をこちらに向けず、傷が目立つフローリングをぼんやり見つめて呟く。
「今までは、入院したら、とくながさんがおみまいに来てくれるし、みんなやさしくしてくれた。病院は、あんしん。ぼくのいていいばしょ。だけど、今は……ぐあいわるくなるのが、こわいんだ。だって……しゅうとさんにあえなくなる……」
「そしたらお見舞いに行くよ。たくさんお花を買っていくね、あの刑事さんの持ってきた花が花瓶に入らなくしてやるよ」
「ほんと……? やくそくしてくれる? ぼくのこと、わすれない? きらいにならない?」
小指を差し出して、こちらを見る瞳はまだ不安で揺らいでいる。
そっと抱きしめてほおを重ね、小指を絡め、すぐに手を包み込むようにぎゅっと握った。
「俺がはとちゃんのこと大好きな気持ち、そんなに疑うなよ。大切な恋人のこと、忘れるはずない。愛してる。何があっても」
耳元で小さく息を飲み、はとちゃんはほんの少し逡巡して、言った。
「……お母さんみたいに、ぼくはしゅうとさんのことも、いつか、わからなくなるかもしれない。それでも……どうか、」
抱えていたぬいぐるみが、床に落っこちる。はとちゃんの顔が視界いっぱいになって、勢い余って触れた眼鏡が少しだけ持ち上がり、思わずまばたきをした。
尖らせて力んだ唇が、かすかに吸い付いて、離れる。
鼻先を触れ合わせて、はとちゃんはなんだか真剣な表情を浮かべる。ほおがかあっと熱くなるのを感じた。
「ぼくの……ぼくだけの、こいびとでいてください」
卑屈で控えめで、何番目でもいいなんて言う彼にとって、どれほど勇気を振り絞った言葉なんだろう。
はとちゃんは、俺の喉元にキスを落として、
セーターの内側、肌の上で指を這わせた。指がつつ、と腹を滑ると、その下が熱くなる。
頭の上にあごを乗せて、後頭部を撫でた。
「もちろんだよ。俺ははとちゃんのものだ、はとちゃんは俺のもんだ、誰にも渡さない」
はとちゃんはそのまま俺の股間に顔を近づけて、ふんふんとへその下でかすかに鼻を鳴らした。
ベルトを外して、自らしゃぶりだす。
「……このまえは、ぼく、ぐあいわるすぎてちゅーするだけでいしきなくなっちゃって、ぜんぜん、しゅうとさんのこと、きもちよくしてあげられなかった。……きょうは、ぼくがしてあげる日なの」
言いながら手でしごき上げ、溢れてくる唾液を亀頭の先にまとわりつかせる。
セックスもはとちゃんがリードするつもりみたいで、ワクワクする。
が、正直言ってそこまで気持ち良くはない。
小さい口でちゅうちゅうと吸い付いてくるが、敏感な所には力加減が強過ぎて、ちょっと痛い。前歯も当たっている。
でも奥までほおばって懸命に顎を動かしている様は、いじらしくて可愛すぎる。せっかくの可愛い顔が見えにくいから、後でもう少し陰毛を薄く処理しようかと思う。
「はとちゃん、えっと……ソフトクリーム舐めるみたいに、そぉっと優しく触れて。……うん、そうそう、上手……」
竿にキスをしたり、玉を揉んだり、変化を付けるたびに俺を上目遣いでうかがう。
献身的で、案外風俗なんかに勤めたら売れっ子になるのかも、なんて考えたが、断れないから酷い目に遭わされるのが関の山か。
そうはならないように、俺が守らなきゃ。
はとちゃんの服をするすると脱がし、尻を撫で、穴を自分の唾液で濡らした指先で横に拡げて、じっとりと解す。
注射器型のローションの先をぱきりと折って開封し、中に少し挿れ、奥へと液を押し込んで流し入れる。
「……今日は騎乗位してみよっか。俺が仰向けに寝るから、はとちゃんが自分で乗って挿れてみて」
はとちゃんのベッドにごろんと身体を委ねると、縦のサイズが小さい上にぬいぐるみに場所を占拠され、足が不恰好にはみ出る。
はとちゃんはブラを外して裸になり、ゴムを被って勃ち上がったそれにおそるおそる手を添えて、穴の入り口に当てがう。
「ん……っ、ん、はぁ、あ……」
少しずつ腰を下ろし、穴の中に飲み込まれていく。腹の上に尻やもも肉が乗る。軽い。
「全部入った? うん、そのまま好きに動いてみて」
「……こう……?」
俺のお腹に手を置いて、身体を上下に揺らす。激しく抜き差しするというよりは、いい所にぐりぐりと腰を擦り付け、一定のリズムで腰を浮かせては沈める。
髪の毛がふわふわと揺れ、瞳を閉じて快感に悶える表情を時折なまめかしく覆う。見上げた華奢な身体は薄暗い部屋の中でも分かるほど、白く眩しい。
根元から吸い上げられるように刺激され、先がはとちゃんの中でこつんこつんと腸壁と擦れる。温かくて、ぐちゅぐちゅで、とろけそうだ。
「ん、ひっ、これっ、やぁ……」
はとちゃんは赤い顔を背けてぎゅっと目を閉じ、口を歪ませる。
動きが鈍くなり、俺は腰を浮かして突き上げてがっつく。ひんひん鼻を鳴らして女々しく喘ぐはとちゃんの手を掴んで、恋人つなぎをした。その奥に、腹の縫合痕と、半勃ちになった薄桃の男性器が見える。
「恥ずかしくなっちゃった? 凄くエロいよ」
「んぅ、や、あ、やだぁ……しゅうとさんのことっ、あ、あっ、お、おかしてる、みたいで、やだよぉぉ……」
バンジージャンプしたくなくて怯えるアイドルみたいに首を何度も横に振って、涙目で俺の手を握り返した。
自分が犯す側になっているような感覚と、気持ち良さとで軽くパニックになっているみたいだ。
本当に、はとちゃんはよくよく反省して、性教育を教え込まれて、従ってる。行き過ぎなくらいに。
「大丈夫だよ、ほらここ、挿入ってない」
手を誘導し、先端をいじってやると中がきゅんと締まって気持ちいい。そのままはとちゃんは自らを握りしめて、涙でほおを濡らしながら身体を震わせる。
「中に意識集中してみて。ゆっくり揺さぶってあげるから……動かせるなら腰動かして。
はとちゃんは今、女の子だよ」
「……ひ、あ、あ……なか、へん、ふ、ああ……っ♡」
太ももをわし掴んで、ゆっくり奥まで突き上げては抜いて、また突く。はとちゃんは次第に前傾して、口を縦に開いて、濡れそぼった舌を唇からはみ出させる。
あられもなく泣きじゃくりながら、嗚咽する。
「うう、おしり、おしりへん、ひ、あ、しゅうとさ、あああ♡ う……っ、ぺんぺんしてぇ、おしりぺんぺんしてよぉぉ♡」
「え、そ、それは……前はしたけど、もう無理だよ。はとちゃんのことが大切だから叩けない、か、代わりにほらここ、触るから」
縫合痕をさすり上げると、ひときわ中がひくついて、俺に絡みつく。濁ったような喘ぎ声を何度も上げ、はとちゃんは自ら腰を淫らに揺らしている。
「中でイキそうなのかな? 女の子より女の子みたいで、すごく、イイ、俺ももう……イクから……」
「んぅ、っ、あ、ああッ、らめぇ♡ いく、いっちゃ、あ、ああああ……」
握りしめたそこから液が溢れず、だけど確かに中はイッたみたいに絞ってきて、俺はそれに身を任せるみたいに溜まった液を放出する。爽快さに目眩がしそうだ。
電流でも流れてるみたいに膝をガクガクさせ、自分の身に何が起こったのか分からない、というように手の中をはとちゃんは見つめている。口の端からはよだれがだらしなく溢れ、とても淫靡だった。
身体を起こし、はとちゃんの身体を抱き締めてよしよしと撫でると、はとちゃんは俺にキスを夢中でしてきて、なおのこと泣いた。
「ぼく、へんに……へんになっちゃった、どうしよう、にんしんしちゃう……」
「あはは、大丈夫だよ。ゴム付けてるし、はとちゃんの身体の中に赤ちゃん作る所は無いから、ああもう可愛いな……。びっくりしちゃったね、中でイッたら精子出て来ない事あるみたいから大丈夫、大丈夫」
ゆっくり中から抜いて、汗ばんだ身体ごと持ってきたタオルで拭いて、そうしてもなかなか涙が止まらないので、マズイかな、と内心焦っていたら、はとちゃんは俺にまとわりつくように触れて、胸にほおを擦り付けた。
「なんか……きもちいいの。なみだが、とまらなくても、いい……。このまま……おひるねしたくなっちゃった……」
満足気な柔らかい笑みを浮かべ、裸のままベッドに横たわる姿は天使過ぎた。
はあ、正直2回戦行きたい気分なんだけど、無理はさせられないしな……。
一応服を着せ、落としたぬいぐるみを拾い、脚をかなり曲げて毛布を被り、隣で目を閉じた。
はとちゃんはスヤスヤ眠ったが、俺には生殺しだった。
睡姦に及ばなかっただけ、成長したような気がする。
「おう狭川、ちょっと煙草休憩付き合え。缶コーヒーおごっちゃる」
「はいはい。コンポタがいいんすけど」
伊吹先輩が普段より何かニヤニヤとした表情を浮かべているのは、今日の朝礼の時点で察してはいた。
喫煙所には青いつなぎを着た清掃員がいたくらいで、うちの社員は他に居ない。
コンポタを上下に振って蓋をひねり、3時過ぎの小腹の空いた胃に流し込む。
2月の末で、そろそろホットの飲み物が自販機から減り始めるだろうか。
うめえうめえと言いながら煙草の煙を吐き出し、パイセンはいたずらっぽく俺を見た。
「一度は言ってみたかったことがあってさ、聞いてくれるか?」
「なんすか」
「良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたい?」
思わず笑ってしまい、気管に入ってむせた。
「何の洋画観たんすか……? 昨日テレビでやってたのポニョじゃなかったでしたっけ」
「言えそうなシチュエーションがレアだから機を逃したくなくてな。ふふん、良いニュースから行こう。ワタクシ伊吹初乃、念願叶って旦那の故郷、仙台支店への転勤が決まった」
「えっ、マジすか? 辞令って3月頭だと思ってたんですけど、へえ……。パイセンならどこだろうと持ち前のサイコパス発揮して仕事出来ますよ。送別会の幹事、俺にやらせて下さいね。ダーツバー貸し切りましょう」
「そいつは出来んな。お前も送られる側だ」
「…………は?」
なんだろう、聞きたくなさがすごい。
「悪いニュースだ。なんと! 何故か! 私も知った時にゃ腐れ縁に爆笑したけど! お前も一緒に仙台行きだ! これからもサイコパス仲間としてやって行こうな? 彼女さんとよく話し合えよ!」
脳が異様に早く回る。
はとちゃんと会える機会が減る。時間が減る。交通費の分、はとちゃんにあげられる物だって減る。この前みたいに駆けつけるなんてことも難しくなる。
嫌だ、せっかくはとちゃんのことを少しずつ知りはじめたのに、遠距離なんてやってられない、俺みたいな奴に手を出されるんじゃないかと気が気じゃない。
いや、待てよ、
「……会社都合の転勤だと住宅補助出るんでしたっけ」
「向こうの社員寮の水準までだが、出るんじゃなかったかな?」
「……同棲したら万事解決、か」
パイセンはにかっと笑って、煙草の臭い消しのガムを噛み砕く。
「責任がどうのこうのとほざいてたよな。いいじゃんいい機会だ、住んじゃえば? いいぜえ、好きな人と暮らすってのは」
いずれ、と遠くに置いていた同棲が、にわかに現実味を帯び始めた。
でもどうすればいい?
はとちゃんは頷いてくれるか?
大坪さんをはじめ、管理人たちは行うべき段取りを教えてくれるだろうか、
っていうか……反対されないだろうか……?
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