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18歳以上ですか?
9 (過去)にしおりをはさみました!
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9 (過去)
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※※※ 6年前
19歳だった九十九昴は大学の先輩である夏目直孝を兄の様に慕っていた。同級生である藤城悠はどちらかというと、夏目直孝を嫌っており、九十九昴ともあまり仲良くはなかった。
幼馴染で、大学まで一緒なのにも関わらず、九十九昴と藤城悠の関係は通常の幼馴染と呼べるような関係ではなかった。どちらかというと一方的に九十九昴が関わっていく形であった。
「悠。風邪引いたんだって?薬作ったから、良かったら飲んでね。」
そう言って渡された薬を藤城悠はため息を吐きながら受け取った。
「いっつも要らないって言ってるだろ?いい加減にしろよな。貰っても飲まねぇよ。」
「でも、ちゃんと貰ってくれる。」
微笑みながら言う九十九昴。
「お前がしつこいからだ。」
藤城悠は別に九十九昴の事が嫌いなわけではない。ただ、苦手だった。綺麗で儚く、優しくて純粋な彼が、触れたら壊れてしまいそうで。
穢してしまうような気がして、遠ざけた。幼い頃は、大切に大切にしていた。壊れることや穢れる事など、そんな知識もなかった頃はただ、大切に大切に接した。
それが、九十九昴と夏目直孝の関係を深めてしまう事になったのかもしれない。高校からの先輩であった夏目直孝は、あらゆる知識を九十九昴に教え込んだ。
4つ年上だった彼は、九十九昴が大学に入学した時には『SUBARU』を開き、その天才的な頭脳を生かして情報屋を始めた。
匙の旧家である九十九家では、賢い者を良しとし、夏目直孝に九十九昴の教育を任せていた。それと同時に九十九家は、彼に何かを依頼し、それの報告の度に彼は屋敷を訪れていた。
一人息子であり、昔は仲の良かった藤城悠から距離を置かれるようになった九十九昴は、夏目直孝を慕い、あらゆる知識を彼から盗もうとしていた。
「直孝さん。情報収集の仕方を教えてくれるって本当ですか?」
「あぁ。本当だよ。でも、君は九十九家の次期当主だ。……君が、この力を使わなくて済むことを願っているよ。」
夏目直孝の言葉に、九十九昴は頭に疑問符を浮かべた。首を傾げる姿を何処か悲しそうに見つめる夏目直孝は、この時点で何かを察していたのかもしれない。
夏目直孝と、情報収集の仕方を教えてもらうと約束してから1ヶ月が過ぎた。美しい紅に染まっていた葉は散り、冬の訪れを感じさせる。
枯れた木々に電飾が巻かれ、イベントまでまだ日があるというのに、街では曲が流れ、子供へのプレゼントを用意するために普段は来ることの無いオモチャ屋に足を運ぶ、会社帰りのサラリーマンなどが目に入る。
いつもとは違う雰囲気。賑やかで、華々しく、明るい雰囲気。そんな中で、夏目直孝はまるでそのイベントを知らないかのように、焦っていた。
情報収集の仕方を教えるのも、それからたった1ヶ月という短期間で終わらせ、クリスマスはその中のたった1日として過ぎて行った。
年越しの日、九十九家には家族全員と、夏目直孝が集まっていた。もともと、両親と九十九昴の3人だったので、夏目直孝が来たからと言って特別かわりもなく、ただ、重々しく新年を迎えた。
19歳の九十九昴には知らされていない、九十九家の秘事について話をしていた両親と夏目直孝。九十九昴はただ、話をしている3人のそばで黙って新年を迎えたのだ。
きっとテレビをつければ、〝あけましておめでとう〟と彼方此方の局で賑やかに新年を迎えているのだろう。
そんな事を考えながら、ふと窓に目を向けた九十九昴の瞳に映ったのは、赤い髪。
美しい緋色。深く、情熱的で、飲み込まれそうな赤。
それは窓の外ではなく、内側。
九十九昴の、目の前に立っていた。
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