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井端甫には幼い頃から許嫁がいた。
川島亜希。川島財閥の一人娘である彼女とは、幼い頃は度々会うことはあったが、家同士が遠いという事も有り、手紙のやり取りが多かった。
幼い子供同士の手紙である。内容は他愛のない事ばかりだ。しかしそれが、幼い彼らを繋ぐ唯一のものでもあった。
「彼女とのやり取りは楽しかった。おままごとのような、幼い僕達はそんな気分だったんだと思う。」
そのうち、幼い頃のおままごとの様な気分から、井端甫は手紙の相手に恋心を抱く様になった。
「それじゃぁ、手紙の相手は川島亜希という女性ではないのか?」
藤城悠の質問に井端甫は首を振った。
「高校の時、数百枚と溜まった手紙の整理をしていたんだ。それまで、僕は全ての手紙にイニシャルで名が記してあるものだと思っていた。しかしそこでやっと僕は、昔彼女は封筒にイニシャルでなく自らの名前を書いていたことに気がついたんだ。」
川島亜希からの手紙はいつも、封筒に川島亜希と名が記してあった。
しかしそれが、井端甫の気づかないうちにイニシャルA.Kと書かれるようになっていた。
井端甫は手紙の受け渡しを行っていた世話役に問い詰め、5年前川島財閥が経営破綻し、川島亜希との関係も全て解消されてしまっていたことを知った。
井端甫は自分が恋心を抱いた相手が、川島亜希でないことをすんなりと受け入れることが出来た。それは、彼女との面識があまりなかったからだろう。
それからは、自らが恋をし、手紙の中で井端甫への愛を記した相手を探し続けた。
大学で筆跡学の教授に鑑定してもらった結果、相手が女性である可能性が高いという事がわかった。
大学を卒業した後も探し続けた。
代筆が井端甫に暴露てからは、彼がどんなに手紙を書いても返事が来ることは無かった。
そんなある日、突然井端の屋敷に火が放たれたのだ。時刻は早朝1時。屋敷には井端の家族皆が居た。
「両親の部屋は玄関から一番遠く、最奥に。それに対して僕の部屋は玄関から二階を繋ぐ階段の直ぐ脇にあった。僕は火に包まれたけど、世話役の菅原篤志-カンバラ アツシ-という男によって助けられた。僕は…両親を助けに行こうとする彼を止めたんだ。僕は両親を、見殺しにした。」
「違うよ。君は、菅原篤志という男を助けたんだ。」
井端甫はその言葉に一瞬、目を見開き、ゆっくりと閉じた。
「ありがとう…両親も、その思い出の品も、大切な僕の恋人との手紙もその火事によって奪われてしまった今、僕にはもう手紙の中の恋人しかいないんだ。」
井端甫は一枚の手紙を握りしめて涙を流した。
「甫さん。その手に持っているのは?」
「えっ。あぁ、これは火事があった後に入院していた僕の元に届いた手紙だよ。もう、この一枚しか僕の元にはない。手がかりは、この手紙だけだ。」
「…わかった。知り合いにその手紙を見せたいから、預かっても構わないか?」
井端甫はそれを了承すると、藤城悠に手紙を差し出した。
情報が集まり次第連絡を入れる約束をし、井端甫はBARを後にした。
「昴は手紙を雪-セツ-の元へ持って行って、鑑定、かれの恋人の情報収集。春一は川島亜希について調べて見てくれ。気になることがあるんだ…俺は俺で調べたい事がある。くれぐれも無理はするなよ。」
ー川島亜希について聞いてきたあの男、もしかしたら…
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