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scene.1
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家を飛び出した俺が頼ったのは、学校内いや、全国屈指の頭脳を持ち、全国模試にて優秀な成績を修め、なおかつ見目麗しく王子様のような風貌をした美形で、更にその上温厚だと噂されている相良秀治であった。
どういうわけか、何においても正反対とされ、学校きっての初の不良、つまり俺との同居生活が、この話の冒頭である。
毎日ほぼと言っても変わらない頻度で、共に過ごし、健やかなる時も、苦しい時も、二人で痛みを分け合いながら、過ごしている。
まるで、お見合い結婚から同棲が始まったかのように聞こえるが、俺たちはそういう関係ではなかった。
だからこそ、こういう問題がいつ起きてもおかしくなかった。
「・・・あー、うん、うん、」
くぐもった声は、困ったような、それでいてひどく面倒くさそうな声だとすぐに分かった。携帯の画面に目線がずれた時も、普段は温厚なタイプの人間が舌打ちをしていた。
よっぽどの事なんだろうか、と気になるくせに聞けないのは、俺達の関係が曖昧だからかもしれない。
家を飛び出たのは、丁度今から四年と半年ほど前だった。よくある家庭内での話だ。和解をしたわけではないが、秀治の説得に両親からの許可も得え、今では秀治と暮らす事が出来ている。
俺は、秀治になんでも話した。秀治は絶対に強要をしなかった。優しく真綿で包み、俺がその中で弱くなり、秀治の事だけを考えるようになれば、後は簡単に口を割る。
秀治は頭が良いから、簡単に俺を洗脳する。そうして出来上がった俺は、秀治からの手を放せなくなり、徐々に依存という言葉を強くしていった。
それは、俺たちが高校を卒業し、大学に入っても変わる事はなかった。
面倒くさそうにベランダから帰ってきた秀治は、ものぐさにテレビを見る俺を軽々と持ち上げ、自身の膝の上へと降ろした。
肩には、秀治の形のいいつむじが見える。
こういう時の秀治は、疲れていると長年連れ添った仲だから、すぐに見抜けた。
「・・・来週なぁ」
「んー」
「・・・実家帰って来いって」
「あー、そっか地元こっちじゃないんだっけ?」
「行きたくねえ、めんどくせえ、俺の地元はここだつーの」
「年々口悪くなってし」
「お前のが移ったのかもな」
「ばーか」
このタイミングで帰って来いと、呼ばない親はうちぐらいだろう。来週は成人式とやらだ。俺の地元は元々高校近くだけど、秀治の地元はもう少し都心の方だった気がする。
それでも区を行き来するぐらいだろうと俺は高を括っていた。
「・・・あー、行きたくねえほんとに」
「すぐ行って夜は帰ってくんだろ」
「・・・あぁ、多分」
「ふーん」
電車でたかたが三十分程度の距離で何をそんなに嘆く必要があるのか。
珍しく駄々をこねる秀治が可愛く見え、肩に乗ったままの頭を撫でてやる。
いつかはされていた方で、今も変わらずその腕は優しいけれど、十代の頃のように甘やかされる事も減ったと思う。
それは、俺自身の心境の変化ではなく、秀治の変化だったけれど。
「・・・まっ、俺は成人式行かねーけどっ」
「は? 行けよちゃんと」
「やだよ、めんどくさいし、着るものねえし」
「・・・あぁ、そういえばそうだったな」
「なんだよ、突然元気になったな」
にんまりと笑う顔には、何か楽しい事を思いついたであろう顔だと知ったのはいつだったか。
何か嫌な予感はするが、さっきまでの鬱々とした雰囲気よりいくらかマシだと思った。
ーー次の日の朝。
昨日の不機嫌さなど何処いく風の上機嫌になった秀治は、おはようの挨拶よりも早く俺を口説き落とそうとしてきた。
同じベッドに寝ていた俺を起こし、朝から甘やかすように撫でられる。
「・・秀治、ちょっ、なに!」
「なに、ってナニ?」
「は、え!?」
「愛でようと思って」
久しぶりと言えるほどご無沙汰だった甘やかし方に、俺の方が恥ずかしくなってくる。
まだ寝ていたいのに、秀治は構う事なく、俺の顔にキスをし続ける。
「・・もっ、なんだよ、ほんと?」
「逃げんなよ、藍」
「くそぉ、寝起きを狙うなんてずりいよ」
「ははっ、やっぱ何年一緒に居ても可愛いな、ほんと」
「・・・俺だってお前が、いいよ」
その一言で更に秀治を喜ばせたのは言うまでもない。俺は朝から講義があるにも関わらず、甘えてしまったのは仕方ないと思う。
久しぶりに愛でられればその腕の中から出る事さえ難しい。幸せをもらった事を噛み締め、慌てて家を飛び出した。
遅刻しそうになる寸前で、出席に間に合ったのは本当によかった。
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