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名前
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電車は、次でS大前駅である。
「じゃあ、俺、次で降りるから」
「そうか。もう着くんだね。寂しな」
さらりと出てくるセリフに、女の子にもこうやってさらりと言っているのだろうなと思ってしまう。
こうやって、さり気なく言えるところが、女子にはたまらないんだろう。
「どうせ、来週会えるでしょ」
俺はもうガッくんがガッくんであると分かった時から、あのサークルに入ることを決めていた。
でも、二次会には行かなかったし、ただでさえ髪の毛で一歩距離を置かれるような俺なのに、あのサークルに入ってもいいのだろうか。
俺の一瞬の過ぎりに気付いてか偶然か、ガッくんはにっこりと笑ってこう言った。
「ユキがサークルに入ってくれるなら嬉しいよ。また会えるの楽しみにしてる」
「おう」
電車がプラットフォームに着く。
俺は、ガッくんに手を振って、電車を降りた。
中学生の時とは全然違った。
駅から家に向かうまでの道で、店のガラスに映る自分の姿を見て、改めて思った。
最後にあってから五年。
五年は長い。
俺もガッくんもあの頃とは違う。
変わってしまったのは、きっと外見だけではない。内面もきっと変わった。いい方向にも、わるい方向にも。
もう戻れないのだ。
あの何も知らないでいられた頃には。
それは、岳も知っていたのだろう。
電車の中で、俺は何度も「ガッくん」と呼んだが、ガッくんは俺のことを極力「ユキ」と呼んでいる気がした。中学の頃では有り得ないことだった。
今どうだかわからない。
昔、岳が名前で呼ぶのは限られた人だった。
俺は、ちゃん付けで呼ばれていたけど、それが二年間変わったことは一度もなかった。
ちゃん付けで呼ぶのをやめて欲しいと言ったら、ちゃん付け以外では呼ばない、と言われたことが一度だけある。
でも、今日、ガッくんは俺のことを、「ユキ」と呼んだのだ。
これは、あの頃とは違うのだと遠回しに言われている気がした。
きっと、ガッくんは無意識のうちにやっているのかもしれない。
正直、俺は「ユキ」と呼ばれようが、「ユキちゃん」と呼ばれようが、どっちでもいい。
「次会ったら、岳って呼ぼう」
俺も出来れば、中学の時ではなく、今の岳を見たい。
それに、正直、中学の時と変わったのは、俺もだから。
岳にも今の俺を見て欲しい。
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