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39にしおりをはさみました!
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39
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「王子様、いい知らせだ、聞いてくれ。君がルビーをあげた劇作家の男が、ついに脚本を書き上げた。春にはメインストリートの劇場で新作を公演するらしいぞ」
「え、あの街で一番大きな劇場で? 本当に!?」
「ああ。しばらく見ないうちに、彼自身の様子もずいぶん変わっていたよ。背筋がスッと伸びて、自信に満ちていた」
「そうなんだ……! ああ、良かった。あの人、小さい頃からずっと一人で頑張ってたから……。ねえ、一体どんなお話を書いたんだろうね?」
「うん。そうだなあ」
王子様はまるで自分のことのように幸せそうに顔を綻ばせていたが、その頬にあった金箔はすでにほとんどが剥がれてなくなっていた。
剥き出しになった鉛色の顔を愛しそうに撫でながら、ソウゲツは思う。
「(本当は自分の目で見たかっただろうな……)」
あの青年だけではない。
これまで王子様が人知れず愛してきた全ての町民が幸せに笑った顔を。生活を取り戻していく姿を……。
「(街の人達は今の君を見て『汚くなった』と言うけれど、私はそうは思わない。その身体から金箔を剥がすたびに気高さが溢れ出してくるようだ。これまで世界中を旅してきたが、こんなに美しい人を私は知らない)」
せめて劇が公開されるその日までこの身体がもってくれたら……。
しかし、それが叶わぬ夢だということは自分が一番よく分かっている。
たった一言「春になったら」と言ってやれない悔しさに、ソウゲツは声を殺して泣いてしまった。
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