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若様9にしおりをはさみました!
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若様9
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「カレーができましたっ!」
「ほら、適当に座れ」
庭のある縁側側ではない屋内側の廊下から襖を開けた葵ちゃんとカレー鍋と炊飯器を持って速水先輩は現れた。
「だあれ?」
「こちらにお客人としてくる先生の付添人どす。どうぞ、よろしうお願いします!」
「……客人?_____そーなんだ。うん!よろしくね」
矢井島が葵の存在に驚いたように目を丸くして
一拍おいてから、順応性が高いのか、それとも何かを聞いていたのか、特に疑問を示すのでもなく矢井島がいつも通りに笑みを浮かべる。
そして、それぞれのお皿に米をよそってルーをかけて
少し遅めの昼食を取ることになった。
そして、食べ終わる頃になって
門川先輩が、障子からこっちをジトリと覗き見ているのに気がつく。
「おい。……食べないのか?」
速水先輩は、いつから気づいていたのか
既によそわれていたカレー皿を手に乗せて近づくと
門川先輩は、庭の方へとぐりんと振り返ってそっぽを向いた。
「た、食べないし!……てゆうか、全然、全くお腹へってないし!!どうせ、変態はカレーも食べちゃいけないからね!!!」
「ね、蒼くん。さとちゃん先輩、何かあったの?」
服の袖をちょいちょいと引かれて
隣に視線を向ける。
「まぁ、少し。でも、気にしないでも大丈夫だと思うけど本人が気にしてないから」
矢井島は、頭の上にクエスチョンマークを浮かべていたが
この喧嘩のきっかけであったはずの葵ちゃんはその華奢な身体に似合わず、さっきからモリモリとカレーを食べ続けていた。
「ふーん。でーも、本人が気にしてる場合はどうするの?」
「つまり?」
「僕が変装してまで協力してあげたり、蒼くんの言う通り会長と話す時『壊してくれる』の単語をいれる事、っていう支持にも従った。あのモデルのツテは新くんだけど!蒼くんと似たようなブレスレットも用意した。……なーのーにっ!!蒼君は来ないし。頼み事として片付けるのは割に合わないよねっ!とゆう事で、貸し1ね?」
「………モデルって?」
「あの腕輪どこかで売ってるものだって事になったのはさどこの国だったかな海外の人気モデルに知り合いがいるらしくて、そのモデルが限定商品って噂を流してくれたんだよね。あの短時間でだよ?!凄いよね。あ!貸し1だからね?!」
確かに、矢井島に結構な負担をかけたのは言い訳のしようがなく俺は黙って頷くことしかできなかった。
その物を言わせない矢井島の視線から逃れようと
未だに食べ続ける葵とそれに対抗するように食べる荒谷を潜り抜けて、縁側で不満げな顔をしてカレーを食べる門川先輩とその隣に腰を下ろしている速水先輩がいた。
「涼先輩って、案外、分かりやすいよね」
「…………何が」
「蒼くんって、もしかしてさ………。いや、何でもなーい。あ!やっぱり、仲良いなぁ。ちょっとだけ________。」
矢井島の弾んだ声色を出すほど
2人の先輩の間に流れるものはそんな愉快な雰囲気ではなかった。
門川先輩が悪ノリでスプーンにのったカレーをこれみよがしに食べるのに苛立った速水先輩がそのスプーンを強引に自分の口元に持っていって、最後の一口のカレーを奪い取って一触即発の空気だった。主に、門川先輩が。
「蒼くんは?あーゆうのどう?羨ましい?」
「全然」
「ノリわるーい!!あ!そうだ。今度、僕がアーンしてあげようか?」
「いや、いい。」
「むぅー。あ!そうだこれが貸し1ってことに……!」
瞳を瞬かせながら不穏なことを告げてくる矢井島の皿に人参がちょこんと乗ってるのに気がついて、矢井島のスプーンを取ると人参を掬い取って矢井島の口元に運ぶ。
「矢井島。ほら、どうぞ」
矢井島が呆気にとられたように
パチパチと目蓋を瞬かせたと思ったら
一瞬で顔を歪めた。
「……う。いや、食べない」
「残してるの、矢井島だけだけど」
「でも、不味いんだもん。美味しくない!それに、食べなくたっていいじゃん!!」
「5………4、3、2_____」
「美音って名前で呼んでくれるなら、食べてもいい」
思いがけない言葉に何も言えずにいると
目を瞑りながら矢井島がスプーンの上にある人参を口にいれると、矢井島が涙目になりながら俺がスプーンを持っていない方の小指を絡めて言った。
「やく……そく、ね!ぅうっ。………や、約束!守ってよ!!」
※
少し遅い昼食が終わって、それぞれが適当な時間を過ごしていき、辺りは真っ暗闇に落ちて庭の仄かな灯りがポツリポツリと灯っているのを縁側に座って眺めていると首にバスタオルを引っ掛けた荒谷が隣に座った。
「お風呂、入らないのか?」
「後で入る」
「なぁ、あの子、本当に初めて会ったのか?」
「あの子?」
「葵って_____子だよ。」
「初めてだけど、何でそんな事」
「なんとなく聞いてみただけだ。」
荒谷のはっきりとしない内容を半ば頭半分で
聞き流していると、矢井島の言っていた事で気になることがあったのを思い出す。
「有名人と知り合いなんだな。」
「有名人?」
「腕輪の噂、流したって聞いたけど。有名なモデル」
荒谷が話し終わるか終わらないかぐらいに
ドタドタと忙しない足音が聞こえてきた。
「おい、お前ら集まれっ!!」
「親父の部屋に、一色の倅が来てんぞっ!!!」
「あぁ?!!あの餓鬼を若には近づけさせるなよ」
厳つい顔をしたこの屋敷の人達が
急にドタバタと忙しなく、ある部屋に折り重なるようにして鬼の形相で耳をそばだてていた。
「客でも来たのか?さっき、言ってたし。面白そうだし、俺たちも行こうっ!!!」
「ちょっ!」
無理矢理に引っ張っていこうとする荒谷の前に突然
誰かが現れる。
「ちょ〜っと、待った!!!新くん、助けて下さ〜い!!!」
どこからか現れた石田さんは
土下座するような勢いで荒谷を拝み倒して
涙目で懇願した。
「うちの若とあの部屋にいる一色の倅をぜったいに!!ぜ〜ったいに、会わないようにしていただきたいんですぅ〜。お願いします!!!」
「ちょっ!!え、何で?石田さん?……どうゆうこと?」
「お願いします!!僕も板挟みで辛いんです!!」
混乱する荒谷に対して、石田さんはただ懇願するだけで2人の会話が全く成立していない。
「何で、2人を会わせちゃ駄目なんですか」
助け舟を出すように
石田さんに向かって、問いかけると
早口に石田さんは話しだした。
「若は、空さんに溺愛されてます。そりゃもう、猫可愛がりって感じで。そんな、空さんの青天の霹靂の事が起こりまして、バレンタインデーという行事に若が、空さんじゃなく……一色の倅に渡しまして。それ以降、空さんは一色の倅を毛嫌いというか、もう、死ぬほど嫌いなんです!!!呪詛とかもするくらいには」
「そんだけ……?なら、問題ないない!!!石田さんが心配するような事ないない」
荒谷が涙目の石田さんを宥めようとするが
それは、石田さんの心配を拭うには至らず
空気が痺れるような矢井島の父親の声が響き渡って
石田さんはびくりと肩を揺らした。
「ひぃっ!……姐さんに、あぁ、若の母上様に、言われたからと言って、僕が一色の倅を屋敷にいれたのバレたら殺されるんで、僕は消えます。ま、また会う日まで!!そんな日が来たらいいけどっ……!!!」
引き止める間も無く、石田さんは飛ぶように駆けていき
その姿はあっという間に消えた。
「2人で、何してるの?僕もいれてよ」
急に覆い被さられたその重みに若干、前のめりになりながらも視線を後ろへ向けると、せっけんの匂いをさせた矢井島がおぶさってきて、振り向いた俺を見て矢井島がにこりと笑う。
「仲間外れするなんて、めっ、だよ?」
お風呂に入ったからだろう、首筋に赤みがさしていた。
サラサラの髪の毛が、首に当たる。
「ア!ソウダ!!ヘヤデトランプシヨウゼ。ソウシヨ!!イマスグ!!!!」
「何で、急に片言?新くん、風邪でもひいた?」
矢井島が腕を伸ばして荒谷のおでこに手のひらを当てるが
当然、風邪をひいている訳でもないので
首を傾げながら、手を引く。
「んー。風邪って訳じゃなさそうかなぁ」
「ジャア、ハナビシヨウゼ!!」
「花火?」
荒谷がカタコトを続けているのに呆れていると
数人の足音が近づいてくる音が聞こえてきたのでゆっくりと立ち上がる。まだ、縁側に座っているままの荒谷の腕を掴んで立ち上がらせながら言った。
「花火、しよう」
「……蒼くんがいうなら。僕もする!!花火するなら、あっちの草がない方にしよっ?」
勢いよく立ち上がった矢井島についていく形で
とりあえず、こっちに向かってくる数人の足音から
遠ざることに成功し、安堵のため息をつく。
「あ、花火とバケツ持ってこなくちゃだよね?僕、持ってくるよ!!場所は?」
「あぁ!忘れてたな。うーんと、確か。大広間の白いビニール袋にあるはず」
荒谷の答えに来た道を戻ってしまった矢井島の背中を見て、何故だか、涙目の石田さんの姿を思い出した。
「……あ!!コレ。まずいっ!」
「いいから、追いかけようっ」
意外にも足が速い矢井島に追いつくのに時間がかかり、見つけた時には、矢井島は尻餅をついて誰かを見上げていた。
「あれが、一色の……セガレ、なのか?」
荒谷の言葉に、矢井島の目の前にいる男を目を凝らして見てみると、仄かな灯りに燈されて浮かび上がるその顔を見て、昼間の男と重なる。
「_____一色、蓮治。」
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