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記憶の雨1にしおりをはさみました!
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記憶の雨1
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唯賀 駿 side
「受け取らないんですか?」
小首を傾げながら尋ねる西方の手にある水色の便箋を受け取ると、
「〝たまには返事が欲しい〟______だそうです。」
と、告げられた。
俺の沈黙に対して、西方が意味が通じてないかと思ったのか付け足すように言った。
「手紙の差出人からの伝言だと、手紙を持ってきた方が言ってました。」
「わざわざ手間を取らせて、悪かったな。………保健室の件も、手間を取らせた。」
それだけ告げて
西方の横を通り過ぎようとしたら、ぐいっと制服の裾を掴まれて、西方へと視線を向ける。
「すいません。………もう随分前、この手紙を持ってきた方は、外に行っちゃいましたよ。会長さん。恐らく、もう学園にはいらっしゃらないと思います。」
ぱっ、と
手を離して困ったような表情で告げる西方を見つめながら言う。
「授業が終わってから、30分は経ってる、大事なテスト前にこの手紙をお前が渡す必要もないし、何なら教師にでも渡せばいい、生徒会室で倒れた俺をお前が見つけた、その理由は何だ?_____________生徒会にでも入りたいのか?」
薄っぺらい笑顔を浮かべ、あまく優しい甘言を垂れ流し、甘い汁を啜ろうと近づいてくる人間を、今まで嫌というほど見てきた。
「理由ですか。………理由は、たまたまです。学年主任に、生徒会室に書類を持ってくように言われて、その道すがら手紙を受け取って、そこでたまたま倒れてる会長さんを見つけたので。………ぁ、30分も学園に残ってたのは勉強の気分転換でいつもと別の環境で勉強しようと思ってたので。………………………コレが、証拠です。」
西方が制服のポケットから取り出した単語カードを見せる。
「これで、少しは信じてもらえると嬉しいです。………ぁ、そうだ、勿論、生徒会に入るつもりはありませんよ。………………けど、僕はなりたいものならありますよ。」
「なりたいもの?」
「僕にとって、生徒会に入るよりも意義があるものです。」
じっと、見つめてくる西方の瞳の中に
特別な色が孕んでいる気がして、反射的に目を細める。
「それを言葉にするなら、………………〝特別〟ですかね。」
「それを俺にいう必要性を感じな、」
「貴方のと言ったら、どうします?」
「……………は。」
「〝あなたの特別でありたい〟と、言ったなら
どうしますか?唯賀会長。」
多少の西方宵に対する疑念と
西方の関連で振り回される事項が多かったことへの多少の意趣返しのつもりだった。崩れることのなさげなその表情を崩してやろうとしただけだったが、思いもよらない顛末に俺の表情が張りついた。
「………なーんて、冗談です、唯賀会長。残念ながら、どう考えたって、僕は会長より坂田風紀委員長の方が好きになれる人だと思いますよ。」
「何でそこで、アイツが出てくるんだ。」
「学園に来てから、風紀委員長には色々とお世話になったので言っただけです。後は、会長と同じように僕も鬱憤を晴らすための〝いやがらせ〟をしたかっただけですかね?違いましたか?」
「噂とは違うみたいだな。」
「噂、ですか?どんな噂かは知りませんが、幻滅させたならすいません。でも、僕も会長が噂とは違うって思ってますよ。噂だと冷たい、と言われてますけど、唯賀会長は…………意外にも優しいですよね?」
転校してきたばかりのせいか、それとも俺に取り入ろうとしているのか知らないが、風紀委員長(あいつ)でもあるまいし、明らかに嘘だと言える言葉を告げる西方に違和感が生まれる。
「今までのどこを見て、優しいなんて勘違いができるのか是非、聞かせてもらいたいものだな。」
「そうですね。………嫌な顔一つせずに、ずっと、待ってくれるところ…………ですかね?」
「何の話だ。」
「随分前に、僕の見たことのある光景の話ですよ。唯賀会長。ぁ、そうだ。………コレ、どうぞ。」
視線を下に下ろして
西方の手のひらに転がる虹色の包み紙の飴玉を視界に入れる。
「何だ。コレは。」
「飴玉ですよ。寝不足にはビタミン取った方がいいと思って。」
「俺は、甘いものが嫌いなんだよ。」
「残念。それなら、桜崎先生の愛用品で、今朝、下さったものですけど、僕は使えないので使ってください。」
「いらな、」
「唯賀会長にあげるものではなくて、お貸しするだけですよ。これからご迷惑をおかけすると思うので、今は、受け取ってください。」
「迷惑?」
「はい。さっきも伝えましたが、僕は、生徒会に入るつもりはありません。だから、それに対する迷惑をかけ続けることになると思うので。多少の賄賂とでも思ってください。…………それじゃあ、失礼します。」
桜崎から貰ったというアイマスクを手渡し
綺麗に腰を折って、頭を下げた西方が外へ出て行こうとするのを声をかけて引き止める。
「まて。話を逸らして、〝ずっと、待ってくれるところ〟………この意味を説明せずに行くつもりか?」
「………〝いやがらせ〟ですよ。僕の鬱憤はまだ晴れていないので。」
西方の口元が三日月のように弧を描いたと思ったら、目元も同じように弧を描く。
「だから、唯賀会長への返答はしません。これくらいは許されますよね。」
今度こそ、雨の中へと消えていった西方の後ろ姿を見送った後に、ズキリとまた頭が痛んだ気がして、瞳を閉じ、目蓋に手の甲を押し当てながら悟った。
「今日は、もう寝た方が良いだろうな。」
※
風紀委員長 side
「帝、マーダー行かないの。授業も終わっちゃったし、そろそろ、白が心配してるんじゃない?」
「あ、あぁ。………もう少し、見てから行くことにする。」
「それ以上、見ても何もないんじゃない?それに、犯人探しなら被害者の白石成からまず、聞くべきだだと思うし、ソーじゃないなら唯賀にモット話聞こうよ。」
白石が倒れていた現場を朝から放課後まで
調べたのだが、やはり、この犯人が誰なのかを解く鍵は唯賀に聞くのが手っ取り早い気がした。
「唯賀は、どう考えても嘘をついてる。だけど、何でだ。」
「さー?分かんないけど、帝、睡眠不足は脳の回転の妨げになるヨ。」
「………しょうがないだろ。毎年の恒例行事なんだから。」
確かに、寝なければ駄目だと思って白石の事故現場から外へ足を運び、学生寮と帰る一本道に戻ってくると、傘を差しもせずに歩いている誰かの人影を見つける。
その誰かの方へと俺が歩き出そうとしたのに気づいたのか後ろから言葉をかけられる。
「帝。夏は、毎年、来るよ。いつまで………その慈善事業は続ける予定なの?」
「俺にも、分からない。だけど、夏が来るならいつまでも続くんだろうな。特に今日は、雨の日だから、尚更にな。」
「ダイジョウブ、なんて誰でもお手軽に使うものだよ。」
「知ってる。誰でも使うし、礼儀としても遠慮としても使う人が多いのも知ってるけど、だけど………………俺が知ってる、〝大丈夫じゃない人〟は、さいごまで笑って、さいごまで、大丈夫以外は使わなかった。」
「ソ。苦労するね、帝は。」
その言葉を背に受けながら、雨の中、傘もささない誰かを追いかける。
しょうがないだろ。
目の前に、困ってる人がいるから。
〝大丈夫〟じゃない人がいる、だから。
他人の口から紡がれる〝大丈夫〟ほど、信用ならないことはない。
「大丈夫?」
「ぇ、ぁ、。風紀委員長さん。こんにちは。どうしたんですか?」
雨に濡れて歩く誰かは、ついこの前、寮まで送り届けた転校生だった。
「雨の中、歩いているの見かけたから。来ただけだよ。」
「わざわざすいません。傘が壊れちゃったんです。でも、もう少しで寮に着くので大丈夫ですよ。」
確かに、寮につくまで10分もないほどの距離だが、雨に濡れるその姿を見れば、放っておくこともできない。
「寮のそばまで送るよ。」
〝大丈夫〟と言って、笑う人ほど
目の前からいなくなってしまう。
白状してしまえば
この行為が重荷に感じることがないといえば嘘だ。
だけど、〝大丈夫〟を見過ごして、後悔をするよりは、よっぽどマシだから。
「あの………。僕、一つだけ質問があって、風紀室委員長さんが探してる人がいると、黒河先生に聞いたんですけど………………その人はどんな人ですか?」
だから、俺のこの選択は
間違っていない、はずなんだ。
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