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261にしおりをはさみました!
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「なるほどな」
全てを聞き終えた火宮の口から出たのは、何だか何もかもに納得したような、そんな一言だった。
「っ、あの…」
チラリと窺った火宮の表情は凪いでいて、何を考えているのかが分からない。
まさか豊峰に制裁とか。
色っぽい意味ではなかったとしても、押し倒されてしまった俺に罰とか。
そういう怖いことを考えていないといいんだけど…。
「なんだ」
「え、いえ…」
やばい。
思わず穴が開くほど見つめてしまった。
薄く目を細めて俺を見てきたその顔は、次には何を言い出すつもりか。
ゴクリと唾を飲み込んだ喉が鳴る。
「まったく、おまえはな…」
「え?」
ふっ、と突然緩んだ火宮の顔が、何故か可笑しそうに薄い笑みをはいた。
「ひ、みや、さん…?」
「相変わらず無鉄砲というか、向こう見ずというか。自分がこれと思ったら、後先考えずに突っ走る」
「っ…」
「そんなに豊峰が気になるか」
「っ、ん…」
自分でもよくわからないけれど、豊峰が意識を引いて止まらないのは確かだ。
「1人でいる彼が…本当は好きでそうしているわけじゃない気がして…」
その理由を知りたくなった。
たった一瞬ぶつかっただけで、痺れるような興味が湧いた。
あの冷め切った瞳が気になって、振り向かせたくてたまらなくなった。
「一目惚れ…?」
「おい」
「っ!いひゃい、いひゃい!」
あれ?うっかり何を口走った、俺。
急に1段低くなった火宮の声が聞こえ、頬っぺたをぎゅぅっとつままれ、左右に引っ張られていた。
「おまえはな…」
「ひがふ、ひがふー。はらひれ」
痛いって!
必死で叫びながら、火宮の手を引き剥がそうともがいた俺は、ジンジンと痛む頬にじわりと涙を滲ませた。
「ったく、言うにことを欠いて何を言い出す」
「だってつい」
「確かに仲良くしたければ好きにしろとは言ったが、浮気なら許さないぞ」
「違いますっ」
どうにか離してもらえた頬を必死でさすりながら、キラリと鋭く光った火宮の目を見て、ビクンと身体が飛び跳ねた。
「ふっ、まぁいい。どうやらフラれたようだしな」
「まだ分かりませんよ」
「殴られかけていて、まだ突っ込んでいく気か?」
「まともに話ができるまでは」
だって諦めたくないんだもん。
「随分とご執心だな」
「怒りますか?」
「多少妬けるが、駄目と言って聞くおまえじゃないだろう?それにおまえにはおまえの世界も考えもあることくらいは理解している。危害が及ばない限り好きにしたらいい」
私情より、こうして俺の意志を尊重してくれるこの人は、こういうとき、本当に大人だなぁと思う。
「あれ?でも、じゃぁ押し倒されたり、殴られかけたりしたことは…」
「ふん。ガキの喧嘩程度なら、わざわざ首を突っ込んだりしない。しないが…もし俺の大事な恋人の顔に痣でもつけてみろ」
「っ…」
「まぁ軽く呼び出して、頬を軽く撫でてやるくらいはする」
うんそれ、絶対殴るやつだよね。
大人だなぁとか言ったの誰。
「ついでに翼」
「え?」
「おまえがきっかけを作って、しっかり油断して押し倒された件はな」
「っ、まさか…」
「許さないぞ」
ニヤリ。
それはそれは意地悪く笑みを浮かべた火宮の顔が見えて、ゾワッと全身に鳥肌が立った。
「っーー!何で豊峰くんは不問で、俺は咎められるわけーっ?!」
殴ろうとしたのは未遂でノーカンだとしても、押し倒してきたのには怒りポイントが入らないのか。
「クッ、そんなもの、恋人が他の男に押し倒され、組み敷かれた姿を想像した俺が面白くないからに決まっている」
「っ…」
何この人。
ものすごいドヤ顔で、思いっきり身勝手なこと言ってない?
思わず呆気に取られて、口がポカンと開いた。
「さぁて、翼。覚悟はいいか?たっぷり仕置きだ」
「っーー!」
この人を大人だなんて言ったの、本当に誰!
これじゃぁただの駄々っ子だ。
玩具を取られて拗ねる子どもと同じだ。
なんて大人気ない…。
「とりあえず翼、その上に着ているものも全て脱ぎ、あの壁際にある紙袋を取ってこい」
う…。
愉悦に目を細め、嬉々として命じてくる火宮から、サディスティックなオーラが漂いまくっている。
俺はすでに下半身裸だから、上を脱いだら全裸になるじゃないか。
「はぁっ…」
俺を裸にして?それでご命令の紙袋には、俺を苛めるための一体どんな代物が…?
思い切り憂鬱になりながらも、俺は何故か火宮の命令には逆らえず、ノロノロと壁際の紙袋に向かっていた。
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