アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
マラソンショコラ③にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
BL Land「2014 Valentine」Tour{増刊特集}
マラソンショコラ③
-
「なんだよ…秦君」
秦君は時々情緒不安定になる。
いつもあんなに人前では笑顔なのに、たまに二人の時感情が爆発する。
今日はその日なのかもしれない。
さっき怒っていたのに、今は周りの空気が暗く澱むほど落ち込んで項垂れている。
一体どうしたのだろう。
膝を抱えて、震える声がした。
「わかんないんだよ…」
こういう時僕は話を聞くことしかできない。
「どしたの」
「俺さ…原田に腹が立っても怒り方がわかんない。
さっきみたく俺が怒鳴ったら、原田が友達やめるとか言いそう。
そんなん嫌だ。
嫌われたくない」
さっき僕は何を責められていたのか、実はよくわかっていない。
だから逆に、あんなわけのわからないことで秦君を嫌いになれない。
「嫌いになんかならないよ」
涙を流す秦君に少し驚いた。
なんで泣いてるんだ。
「じゃあ何でウチ来てもすぐ帰るんだよ!
メール送ってこないし、逢ってもつまんなそうだし、
俺はどこで安心すればいいわけ」
「え?」
「こんなカッコ悪いこと面と向かって言いたくないけど!
言葉では「お前の好きにしたらいいよ」って言ってさ!
心の広い男でいたいんだよ!
余裕ぶってたいのに!
俺以外の人間にチョコとかもらって喜んでんじゃねーよ。
なんかでもさ、こういうのカッコ悪い…
俺、原田に嫌われたくない。
お願い、嫌わないで…」
話がよくわからない。
僕は黙って、秦君のひっくひっくと揺れる背中をさすっていた。
「ごめん。今日の俺、変だから忘れてくれ…」
きっと酔ってるんだろう。
今日は悪酔いでもしたのだろう。
「僕は秦君がカッコイイから友達なんじゃないよ。
仕事で何があったか知らないけど、失敗したって僕は秦君のこと嫌いにならないよ。
秦君だから友達なんだ。
だいたい僕、『心の広い寛大な男』とか善人ぶってるヤツのほうが嫌いだし。
なんかよくわかんないけど、
ゴチャゴチャ小難しく考えるなよ」
「原田…」
泣いた秦君が僕に抱きついてきた。
頭をヨシヨシ撫でながら、秦君の悲しみを想う。
秦君もマラソンレース走ってるのかなあ。
きっと疲れてるんだ。
僕とは違う先頭集団なんだろう。
大変なのかなって思った。
「わかった。
秦君が喉乾いた時は、僕が給水所で水を渡してあげるから」
「…水?」
「人生はマラソンだからな」
「え…?」
「だってお前まだ走りたいんだろう?」
気づいたら走っていた僕と違って、秦君は自ら走る珍しい人だ。
ゴールした時の達成感を目標にできる数少ない人だ。
僕がそう言うと秦君が少し笑った。
「ありがと…水うれしい。
でも俺は原田からしか受け取らないから」
それが愛の告白だと気づかない僕に非はない。
仕方ないよ、経験値ゼロだから。
「いいよ、じゃあこっそりビール渡してあげようか」
温くなった缶ビールを持ち上げて、
検討ハズレなことを言うと秦君が吹き出した。
「原田、口の周りにチョコついてるぞ」
視界が暗くなる。
突然のことで体が固まる。
秦君が僕にキスした。
ついでみたく唇と頬をペロぺロとなめられて。
なっ…なっ…なっ…
心臓が早鐘のようとは、このことかと頭のどこかで冷静に実況するもう一人の自分。
秦君は片方だけ口角を上げた。
それはそれは男前で。
蠱惑な笑みを浮かべて秦君は僕に言った。
「バレンタインのチョコは全部持って帰って。
俺は水もビールもチョコも原田からしか受け取らない」
憂鬱なバレンタインがパァンと弾ける。
消化試合だと思った残りの人生は
どうやらこれからが本番みたい。
おわり
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
31 / 42