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「リサイタルは、楠田さんが嫌ならでなくていいと思う。けど、俺は楠田さんにギターをやめてほしくない。」
「へぇ??」
意外そうに、瑠璃条は目を見開く。
「驚きだわ。…あんなに楠田チャンの音楽愛を否定していたアンタが、今頃になってギターは捨てるな、だなんて。」
榎野は彼女から顔を背け、落ち着きなく店の椅子をかたんかたんと上下に揺らす。
「…あの人が持つ、音楽への思いを否定した覚えはありません。…ただ、際限ない情熱に反発する気持ちはありました。」
「要するに、単なる嫉妬じゃない。」
「…そうですよ。」
仏頂面の後輩に、瑠璃条は口元に微苦笑を滲ませる。
「次にあの人と俺のこれから…ですけど。」
もう一度、告白しようと思います、という榎野の結論に瑠璃条は腹を抱えて笑う。
「懲りないわねぇ。」
榎野はフンと鼻を鳴らし、いっそ潔く言い放つ。
「あの人が俺のドラムしか聞けないってウチに来てくれたのなら、俺だってあの人しか見えません。」
生涯俺の恋心はあの人に捧げるんです、と語る後輩の背を、瑠璃条は重い、と力任せに叩く。痛覚を噛み締めてから、榎野は再び前を向く。
「多少重たくったってしょうがないでしょう。俺はあの人を、恋愛でも音楽でも一度傷つけているんです。開き直るなんて、できませんよ。」
頬杖をつく瑠璃条は訊くまでもないという風に気の抜けた声を出す。
「…でも、楠田チャンのこと、アンタまだ好きなのよね。」
「はい。」
榎野は大きく、揺るぎない強さで頷く。
「俺は、それでも楠田さんを愛しています。」
言い切って数秒後。早くも後輩は、深々と頭を抱える。
「きっと俺より、楠田さんを幸せにできる人は他にも大勢いるんでしょうけど。」
自嘲気味に微笑む後輩を一瞥し、瑠璃条は卓上を両手で強く叩いた。…びりびり、と辺りの空気が震え、卓上の皿と皿とがぶつかり合い、高い音が響く。
「どこかの誰かと比べないッ!!」
大声を放った瑠璃条は、気合の入った顔で両手を伸ばし、榎野の左右の頬を包み込む。
「アンタってば、いつもそう!!音楽だって、人間関係でも誰かと比較して視線を気にしている。…あたしと知り合った時もそうだったわよね。覚えている??四月の入学したて。顔がいい上に物腰が柔らかいって、女子生徒みんなに”王子”って呼ばれてチヤホヤされていた!!」
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