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「あの…橘…?」
きっとすごく情けない顔をしていたと思う。目を見開いたまま、瞬きもせず固まる橘を、伺うように下から見つめた。
俺の言葉にはっとしたように瞬きを繰り返す橘を見て、こんな状況にも関わらず、可愛いと思ってしまった。橘に、怒鳴られても嫌われても文句は言えないような状況だというのに…どこまでも正直に向かっていくこの気持ちは、自分でも制御できない。そんな自分に、表情には出さず呆れ返っていると、橘が静かに口を開くのが見えて、意識をそちらに集中した。
「や…山田は、なんで、恋神様になりきったりしたんだ…?」
そう話した橘は、普段からは考えられないほど、挙動不審というか、とても戸惑っているようだった。まあ、恋神様だと思ってた相手が自分の知ってるクラスメートだったんだから、そりゃ混乱もするだろうけど…それにしたって驚きすぎじゃないか?
とりあえず怒っている様子がないことに安堵したものの、いきなり核心をつくような質問をされて、口を噤むしかなかった。
黙り込んで俯いてしまった俺に、橘もどうしていいかわからないのか、何も言えずに立ったままだ。…もう、本当のことを言ってしまおうか。この場を誤魔化すための嘘なんて、焦った頭じゃ思い浮かばなかった。当たって砕けろと思って、勢い良く顔を上げ、口を開いた。
「俺…橘が好きなんだ。」
言った。ついに言ってしまった。この言葉を皮切りに、今まで言えなかった想いがぼろぼろと溢れ出す。
「男なのに気持ち悪いって思うと思うけど…、橘が落ち込んでるの見たくなくて。あの場に居合わせたのは偶然だったけど、好きだから相談ものってたし、励ましたかった。結果、それで橘が、俺じゃない人と付き合ったとしても…いいと思って」
話しながら、鼻の奥がツンと痛んで、涙が滲むのがわかった。ここで泣くなんて、もっと嫌われてしまうと思ったから、何度も瞬きして、絶対に涙がこぼれないように我慢した。まるで震えそうなのを隠すように、強い響きをもって発された言葉は、情けないことに最後の方で震えてしまったけど、ちゃんと伝えることはできた。緊張と不安と、ずっと胸に秘めていた気持ちをやっと吐露できたことへの清々しい気持ちが、不思議な心地で俺をこの場に立たせていた。
「……山田…、これ、夢じゃねえよな?ドッキリとかでも、ねえよな?」
「えっ?いやいや、それはないって。橘にドッキリなんて誰もできな…いと思います、よ…?」
橘が突拍子もないことを言うから、涙も引っ込んで普段の感じで突っ込んでしまったが、俺は今断罪されるのを待っている身なんだと思い出して、尻すぼみになってしまった。再び橘を伺い見る俺を見て、橘は小さく噴き出し、急に肩を震わせて笑い始めた。それを見て、思わず、うぇ?、と情けない声がでる。確かにさっきのはおかしかった自覚があるけど…こうやっていつも話してる時みたいに橘が笑うのを見ると、橘は俺が騙したこと、怒ってないのかもなんて、自分に都合良く解釈してしまいたくなる。
しばらく笑って落ち着いたのか、息を吐き出して、笑みの残る顔で橘が話し出す。
「笑って悪かった。けど、なんか気が抜けたっていうか…緊張した雰囲気がいつも通りになって、安心しちまってさ」
「あ、いや…俺もちょっと、安心したし」
照れ臭そうに笑う橘に、戸惑いながらも言葉を返す。それを聞いた橘は、長い足で数歩こちらに歩いてきて、そして…、動けずに固まる俺を、優しく抱きしめた。
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