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22にしおりをはさみました!
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「俺さ‥映画が好きで結構色んなの見るんだよ。SF、ホラー、アニメ、恋愛系から犯罪的な物も気になったヤツ色々」
「‥」
「まあ、映画に限らずだけど物語を見てると‥名言みたいなのってあるだろ?」
「‥名言?」
「そう。ぐっときた台詞とか、忘れられないような‥人の心が動くような言葉かな」
「‥」
先生が何を話したかったのか分からなかった。ただ雑談をしたかったのか俺の意識を別の方に向けたかっただけなのか‥
ただ俺から離れていかない手は、髪や額、頬や目元をそっと掠めていくから、それがどうにも心地良くてただ話しに耳を傾けた。
「‥良い映画だなって思った訳じゃない。恋愛物はハッピーエンドが好きだけどそうじゃなかったし」
「‥」
グッと落ちた声のトーンに少しだけ目を開けた。思い出すような目は遠くを見ていて、悲しげな瞳だった。
「いや‥でもあれはもしかしたらハッピーエンドに入るのかもしれない。結局彼女とは結ばれず死別だったんだけど」
「‥死別ならハッピーじゃなくない?」
「ああ‥そうか。ハッピーなエンドじゃないのか‥切ない系?‥なるほど」
「なんか‥今の先生アホっぽいよ」
「え、ああ‥そうかもしれない」
俺が先生を見ている事に気付いたのか、先生は俺を見てにこりと笑った。初めて出席を取ったあの日みたいに愛おしむような瞳で‥
「彼女がさ‥彼に残したモノはとても大きかったんだ」
「‥」
「彼がその大きさに気付いたのは‥彼女が死んでからだった」
「‥失ってから気付く。有りがちな話しです」
「そうなんだよ。でもさ‥」
先生が不意に俺の頬を包み込んで視線を合わせた
「人はみんな、1人分の幸せを持って生まれてくるんだって」
「‥1人分?」
「そう、1人分。
1人を幸せに出来る分だけ」
「‥凄い‥ですね」
「凄い?」
「だって‥1人は幸せにできるんでしょ?俺が持ってる幸せ分‥誰かが幸せになれる。俺が幸せにしてやれるんだ‥」
1人分。
1人分の幸せを保証して生まれて来るなんて、単純に凄い事だと思った。
「‥凄いな」
「うん」
「いや‥永久がね」
「‥俺?なんで‥変な事言った?」
俺を覗き込む先生の顔が驚いたような顔をしていて訳が分からない。
「‥いや‥うん。
今の永久みたいに‥自分の持っている一人分の幸せを誰かに与えてって、その為に人は恋をするんだって‥彼女は彼に言ったんだ」
「‥」
「でも俺はさ‥一人分の幸せを持ってるならそれは自分の物でもいいんじゃないかって思った。誰にもあげず誰からも貰わず‥だけど安定の幸せだろ?自分が持ってた物なんだから」
「‥」
確かにそれは妥当な考え方だ。それで自分の幸せが保証されるなら‥みんな1人1人が幸せでいられる。
「でもさ。でも誰かと付き合ったりする度に思う‥俺の幸せを渡す相手はこいつじゃないって」
「‥自分のモノじゃなかったの」
「ははっ。意地が悪いのか‥どうも反対の事を考えてしまって、でも別に‥誰かに渡したくない訳じゃないんだ」
「‥ひねくれてるんだな」
「そうとも言う。
‥でもどうしても、その台詞だけが引っ掛かって離れないんだ。ふとした拍子に思い出しては考える」
「‥」
「もしかしたら幸せ譲渡は一回じゃなくてさ‥色んな形があるのかもしれない。渡した幸せを返される事だってあるだろうし、渡したくても渡せなかったり‥渡した相手に持ち逃げされる事もあるかもしれないな‥」
「‥考えすぎだろ」
「そうだな」
ふわっと笑う先生を嫌いだとは思わなかった。
彼女がどうこうだと話す先生を別に嫌だと思わなかった。
‥先生と生徒とは違った話しが出来て、もしかしたら少しだけ嬉しかったのかもしれない。
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