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「‥お邪魔します」
「いらっしゃい」
鼻歌でも唄い出しそうな程「ご機嫌です」というオーラを身に纏う稔さんの原因は紛れもなくこの場所にある。
「お腹空いてない?」
「‥少し」
「んじゃ、軽く何か作るから‥適当にくつろいで」
「‥うん」
あの後、車にエンジンをかけた稔さんに俺は稔さんの家に行きたいと言った。
「ねえ‥」
「ん?」
「今日は‥稔さん家、行っていい?」
「!?」
「‥」
運転席を見るとビックリした目をした稔さんが俺を見つめていた。
その後、もの凄く嬉しそうな顔をして何も言わないまま発進した車が停まったのは俺の住むアパートの前。
「制服着替えて、泊まる準備して来て?待ってるから」
「‥ん。」
やっぱり駄目だったかと思う前にこの一言。稔さんはどこまでも欲に忠実だけど、その欲は俺の事も考えた上での欲のような気が、しなくもない‥
「‥」
チラリとキッチンを見ると、黒いスーツからラフな私服に着替えた稔さんが冷蔵庫の中に手を伸ばしていた。
意外‥かもしれないけど、今まで稔さんの家に来た事は無くこれが初めてで‥俺も少しだけ緊張してる。
俺から行きたいとは言わなかったし稔さんは来いとも言わなかった。
多分‥俺が行きたいと言えば何時でも来れた。
稔さんは俺を拒否するような人じゃない。来なかったのは、踏み入れちゃいけない気がしてたのもあるけど‥多分その理由も俺自身だ。
踏み込めなかったのは稔さんへの気持ちを俺自身が拒否していたから。
戻れなくなる事が怖かった。
稔さんの部屋はまあまあ綺麗に片付いてたけど、机にぐちゃぐちゃと重なるプリントや本やノート、ファイル何かが稔さんの職業を思わせた。
本棚には数学の参考書なんかがビッシリ詰まっていて、この人の真面目さやストイックさが伺える。
きっと‥生徒に分かりやすく教える為にも沢山の知識が必要なんだろう。
真剣な顔でページを捲る稔さんを想像してつい笑みが零れた。
「何笑ってんの?」
「っ!」
思ってたよりも近い距離にビクリと肩が揺れてしまった。
気配‥しなかったし。
「本‥凄いね」
「読みたいなら持ってっていいよ?」
「遠慮するわ。今そういう気分じゃないし‥」
「そー?」
「勉強熱心なんだね」
「ははっ。まあ教えるのが職業だからね。そこはしっかりしないと、生徒の将来もかかってる訳だし」
「‥稔さんの授業、解りやすいよ。」
「それは良かった」
「みんなも言ってる。袴田先生は好きだって」
良い感じに息抜きを混ぜてくれるから集中しやすく説明も親切なんだ。
「誉められても何も出せないがな」
心なしか嬉しそうな声が聞こえたのは間違いじゃないと思う。
「本当に頭良い人は万人が解るように喋る」
「?」
「聞いた話し。頭良い人ってさ、専門用語とか使いたがるっていうか‥知識があるから仕方ないんだろうけど。みんながその説明じゃ解らないような説明をする」
「なるほど‥」
「だから本当に頭良い人って、万人が理解出来るように説明出来る人なんだって」
「それはそれで嫌味だな」
「‥なるほど、俺は単純に納得しちゃった。
袴田先生の授業は理解出来るって話してるの聞いて、稔さん頭良いんだって思ってたけど‥単なる嫌味か」
「そうきたか。」
眉間を押さえてわざとらしく溜め息を吐く。
不意に顎を持たれ唇が重なった。
「んっ」
軽く触れた唇はまたわざとらしくちゅっと音を立てて離れる。
わしゃわしゃと俺の髪を撫でる手と横顔はさっきよりも嬉しそうに見えたのは俺の勘違いかもしれない。
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