アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
episode.94 思い出せない言葉にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
episode.94 思い出せない言葉
-
〜恋side〜
「愛してるよ。」
恋の脳内に突然響いたその言葉は、とても優しくて、心地よくて、そしてどこかで聞いたことがある気がした。
途端に視界が開けた気がして、自分が何をしていたのかを理解する前に激しい痛みが体を襲った。
「い、た……いっ……」
気付いたらそう口に出していて、恋自身も戸惑った。
「うん、痛いな。痛いよな。でももう大丈夫だぞ。」
そう言う声は赤津のもので、恋はひどく安心した。
そして安心したら、涙がもっと溢れて止まらなくなった。
「うん、泣いていいんだぞ。」
そう言って恋の頭を撫でる手は、いつもの、大きくて温かくて心地いい赤津の手だった。
「ご、めんな、さい。」
恋は途切れ途切れに、でも必死に言葉を紡いだ。
「ごめん、なさ、い。」
「もういいよ。もういいんだよ。」
しばらくの間、赤津は恋を抱きしめたまま、頭を撫で続けた。
恋がだいぶ落ち着いた頃には20時を回っていた。
「もう、大丈夫です……」
恋の目は赤く腫れていて、腕からは血が垂れているものの、その視線はしっかりとしていた。
「ん、大丈夫そうだな。」
そう言う赤津の胸元には血がべっとりと付いていて、一瞬恋はぎょっとした。
「ん?あー、血ついちゃったんだな。気にすんな。それより手当どうするかね?」
「あったー!」
さっきから木之本が何かゴソゴソとしていたが、どうやら救急箱を探していたらしい。
「そんなことより、明希が……」
「大丈夫。あっちは紘さんに任せてある。俊蔵の狙いは恋だから、明希くんが何かされることはないよ。」
赤津の言うことの半分はよくわからなかったが、明希が無事だというならそれでいいと恋は思った。
「ということで腹が減っては戦はできぬ、ならぬ傷があっては逮捕ができぬ!」
「……逮捕するの俺たちじゃねえし。わけわかんねえこと言うなつっの。」
「はいはい、ほら、タオル持ってきたから恋くんの血拭いて!」
木之本と赤津がボロボロになった恋の左腕を丁寧に治療してくれた。
「右利きだから左腕ね……あーもう、首とかいきなりいかなくてほんと良かった……マジで焦ったし……」
「ごめんなさい……」
「俺も、血の気が引くってこのことだと思った。明希ちゃんに怒られそー……」
「本当だよ……絶対怒るぞ、明希くん。」
恋はメールを見て、何も考えられなくなってしまった。
頭が真っ白になり、とにかく帰らなければと思い家に帰ったものの、落ち着いて写真をもう一度確認すれば、それは夢ではなくて。
そのあとのことはあまりよく覚えていなかった。
気がついたら赤津に名前を呼ばれ、それでも死ななければならないという思いに駆られていた。
だが何かが恋を引き止めた。
耳元で囁かれたあの言葉はなんだっただろうか。
思い出そうとしても、全く思い出せなかった。
何かとても、大事なことを言われた気がしていた。
だが恋の記憶からは、絞っても絞っても、先ほどの言葉は出てこなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
108 / 832