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episode.139 好きなのににしおりをはさみました!
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episode.139 好きなのに
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〜紘side〜
結婚式が終わり、思った以上に疲れていたらしい千秋は、車の中で眠っていた。
家に着き、千秋を抱えて車を降りる。
千秋は安心しきってスヤスヤと寝息を立てている。
事件直後は恐怖からか、眠ってもすぐに目覚めてしまっていたというのに、今では紘の腕の中で穏やかな顔をしている。
「千秋、着いたよ。」
部屋のベットに着き、紘は、一応そう声をかけたものの、千秋は起きる気配はない。
紘は仕方なく、千秋の着ているスーツを脱がせていく。
タンスから部屋着を引っ張り出して、着せるために少し体を起こさせた。
「ひ、ろ……さん……」
「千秋……」
千秋は、無意識な時、紘の名前を呼ぶらしいことが最近わかった。
それはもちろん本人の耳には届いていない。
だが、確かに紘の名前を呼ぶのだ。それは、ヒロではなくて、紘なのだ。
ヒロ、という時と、紘、という時、千秋は手話を変える。
別人として認識している証拠でもあり、紘はそれを見るたびに胸が痛む。
千秋の心は、まだ壊れたままなのだ。
当たり前のような日常に戻ってからも、千秋の心が修復されていかなくて、それだけ紘の存在が大きかったのだということはわかる。
「千秋……俺はここにいるよ……」
聞こえないとわかっていて、紘は耳元でそう囁く。
いつの間にか、千秋への好意は膨らみ、千秋もそうだったらいいのに、と思う毎日。
好きなのに伝えることもできない。
声を届けられない。
愛を与えられない。
紘はため息をついて、千秋のワイシャツを脱がせる。
事件の時についた傷はすっかり治り、千秋の白い肌には、あの火傷の痕だけが残っている。
紘は千秋をそっと抱きしめ、火傷の痕を撫でる。
「……ん、う……」
千秋はそれに目を覚ましたのか、身を捩った。
「おはよう、千秋。」
"紘さん……?"
寝ぼけているのか、紘、と呼んでくる千秋。
「そうだよ。」
"本当に、紘さん?"
「そうだよ。」
"そっか……これ夢なんですね……"
悲しそうに微笑む千秋を見て、紘はまた胸を痛めた。
夢ではない。
そう言いかけた紘の唇は、千秋の唇によって塞がれていた。
あまりに突然の出来事に、紘は目を見開いた。
"夢の中だけ……紘さんにワガママ言ってもいい……?"
千秋は唇を離すと、そう手話をして、今度は手話ではなくて、口を動かした。
"抱いてほしい"
そう、言ったのだ。
紘は、あまりに儚くて、壊れてしまいそうな千秋を、そっとベットに倒した。
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