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episode.157 愛しい声にしおりをはさみました!
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episode.157 愛しい声
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〜恋side〜
雨が恋の体に打ちつけ、雷はまだ鳴っていた。
走るとなると案外空港までの距離はあり、もうすでに15時半だった。
「はぁっ、はぁ……はぁっ……」
胸が苦しくて、喉が焼けそうだった。
だが、走るのをやめるわけには行かなかった。
どうしても伝えたい。
言わなければ。
その思いだけで、恋は重い足を前に運んでいた。
もう頭がクラクラしてきて、これ以上走るのは無理だと、体は訴えている。
それでも恋は走り続けた。
何度も転びそうになりながら
何度も止まって
何度も歩いて
それでも走って、走って
ようやく空港のロビーにたどり着いたのは、最終搭乗時刻だった。
「っ……はぁっ、はぁっ……」
恋はあたりをキョロキョロと探し回った。
あの人がいないか。
ひょっとしたらまだいるのではないか。
そんな恋の淡い期待は、アナウンスによって一蹴される。
「〇〇便の搭乗は終了いたしました。これより離陸準備に入ります。お次の便をお待ちください。」
恋はその場にヘナヘナと崩れ込んだ。
雨に濡れた恋の髪から、水滴が床に垂れている。
だが、雨とは別に、床を濡らすものがあった。
「どうしてっ……どうしてよ、っ……記憶がっ、戻ったのに……!」
搭乗手続きの済んだローデンス行きの便のためのロビーは人が少なかった。
荷物検査をしていた職員たちもいなくなっていく。
恋の目の前の窓の外には、離陸していく飛行機。
ローデンス行きの飛行機だ。
(遅かった……?どうして朝、止めなかった……?)
考えれば考えるほど、床に垂れる水滴は増えていく。
「なんでっ……なんで直接っ……」
ウサギのぬいぐるみから発された音声。
忘れることのできない響きだった。
たった2文字のその言葉は
恋の心に大きく響いていた。
「なんで……掻き乱すだけ掻き乱して、逃げるなんてずるいっ……!」
恋の口からは自然に言葉が溢れた。
聞いている人間なんていない。
そう思ったら止まらなかった。
「俺も……」
恋はぎゅっと拳を握りしめる。
「俺もあなたが好きなのに……!!」
恋がそう言った時。
今までの曇り空が嘘のように、太陽の光が雲の切れ間から差し込んでいる。
(天気、雨……?)
雨は依然として降り続けるものの、太陽に照らされて、キラキラと輝いていた。
(会いたい……赤津さんに……)
「今日は、七夕なんだろ……一年に一度だけ、好きな人と会えるんだろ……!会わせろよ……会いたいよ……」
恋は誰に言うでもなく、外を見て、そう呟いた。
そして、気がついた。
窓に映る自分の後ろに
もう1人誰かいることに。
「恋。」
そして愛しい人のその声で、自分の名前が呼ばれたことに。
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