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episode.158 好きと言えたらにしおりをはさみました!
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episode.158 好きと言えたら
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〜恋side〜
「どうして……」
たった今、目の前で、飛行機が離陸したのを見たばかりだった。
それは確かに、赤津が乗る予定だった便のはず。
「恋。」
でも目の前にいるのは確かに赤津で
自分を呼ぶ声も
優しい笑顔も
大きな手も
そして今抱きしめてくれているその温もりも
全てが、愛しい、赤津のそれだった。
「……どうしてっ……どうして、直接、言ってくれ、ないんですかっ……!ウサギに、録音、するなんて、ずる、い、ですよっ!」
涙が止まらなくて、つっかえながらそう言う。
呆然と座り込み、ただ、涙だけが溢れて止まらなかった。
「うん、ごめん。」
「一回はっ……行こうとした、くせに、なんで、ここに、いるんです、かっ……」
「うん、ごめんな。」
「なんでっ、なんでっ……」
言いたいことはそれじゃないのに。
うまく言葉が紡げない。
「……本当は手放してやろうって、そう思ってたんだ。」
赤津は、恋を抱きしめる腕を緩めることなく、優しく話しかけてくる。
「でも、無理だった。雷が鳴っただけで、恋は大丈夫かな、また震えてないかなって。今だって震えてる。怖かったんだろ。」
確かに雷は怖かった。
だが今はそれが大事なのではない。
「お前を手放すなんて、無理だ。縛り付けてるって、わかってる。でも、俺は、お前が好きで、好きで……お前のそばにいたい。」
あぁ、なんてバカな人なんだろう。
自分はまだ、何も言っていないじゃないか。
縛り付けてるなんて、勝手に勘違いして
勝手に手放そうとして
そんなの望んでいない。
一つだけ、望んでいることがあるとしたら
たった2文字を言いたいということ。
この2文字が言えたらどんなにいいかと
ずっと思ってきた。
事故に遭う前の自分も、今の自分も
この2文字が言いたくて、赤津に会いに来た。
好きと言えたら。
ずっとずっと言いたかった。
今なら言える。
はっきりと。
「赤津さんの、バカ。俺はまだ、何も言ってませんよ!」
泣いていて震える声で、でもはっきりと話す。
ぎゅっと赤津にしがみつき、顔を埋めるようにして
ぐっと体温が上がった気がする顔を隠す。
「好きです。」
一瞬、時が止まったかのように静かな時間が訪れた。
「あなたが、好きなんです。」
「恋……本当に……?」
「こ、こんなことで嘘つきません……!!」
グイッと体を離され、顔を覗き込まれた恋は、赤津から目を背け、顔を真っ赤にした。
「マジで……?え?夢じゃないよな。俺生きてるよね。これ夢じゃないよな?……いってえ!夢じゃない!」
赤津は自分の頬をぎゅっとつねった。
「……ゆ、夢みたいなのは、俺の方です……」
「……恋、待って、ここ空港だから。そんな可愛い顔しないで。」
「……へ?」
気が緩んだ恋は間抜けな声を出した。
「あんまり可愛いと食べちゃうよ。」
耳元でそう言われて、恋は首まで真っ赤にした。
「はいはい、冗談。……また、一緒に住んでくれるか?」
「当たり前です……今度は、契約じゃなくて、ちゃんと恋人として。お願いします。」
「おう。じゃあ帰るぞ!今日は恋の誕生日だからなー!パーティーだパーティ!!」
「あ、そうだ、誕生日……」
すっかり忘れていた。
ぽけっとしている恋の手を取り、立たせると、赤津は優しい笑顔になった。
「誕生日おめでとう、恋。」
赤津はそう言うと恋の唇に優しく自分のそれを重ねてきた。
「……ふふっ……あはは!」
「ははは!」
2人で額をコツン、と重ね合わせて笑った。
空は晴れ、雨は止み、虹がかかっていた。
七夕という日に出会った2人。
運命は実際、存在しているのかもしれない。
遠回りをした気がするが、恋はそれでもよかった。
今隣に、愛しい人がいる。
好きと伝えることができた。
それだけでもう、十分だった。
「恋、好きだよ。」
「はい、俺もです。」
*END*
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