アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
*42にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
*42
-
〜恋side〜
9月4日 青木家
「台本通りの生活?」
「それどういうこと?」
恋の家に明希と千秋を呼び、小雪も含めて4人で話をする。
事情を2人に説明すれば、納得がいったようだった。
「でもそれって…恋、辛くないの?」
「どうして?演技だろ?」
「そりゃ、そうなんだけどさ…」
千秋は口ごもる。
「琉さんって、演技にのめり込むタイプだって話、前にしてたよね?」
すると明希がそう言った。
「うん。今もそうだと思う。」
「琉さんに忘れられるってことだよ?俺、翔也さんに忘れられると思ったら無理。」
「…いまいち実感もわかないんだよね…契約恋愛の時とは違うから…」
「提案しといた僕が言うのもなんだけど、恋さんには辛いものになると思うよ?」
「そうですかね…?」
正直、恋にはあまりわからなかった。
前回とは違い、かなり台本を読み込んだが、いまいちピンとこない。
「恋さんさ、記憶なくした側の気持ちはわかるでしょ?」
小雪の言葉に、恋はこくりと頷く。
思い出したいのに、思い出せない。好きなのに、自信がなくなる。
どんどん、自分の中の琉の記憶がないことが不安になり、怖くなり、切なくなる。
あれはなんとも形容しがたい気持ちだった。
「忘れられる側も、同じだけ、いや、それ以上に辛いかも。しかもこのドラマの悲しいところは、最初はあるのに、1日ごとに記憶が減っていくこと。どんどん、琉さんが琉さんじゃなくなってく。」
そう言われると、急に不安な気持ちになる。
いくら演技とはいえ、それを自分は受け止めきれるだろうか。
「…でもまあ!深く考えすぎずにやったほうがいいよ。恋さんは恋さんのままで、感情の向くままにやってみたらいいんじゃない?そのほうが本当っぽいでしょ?」
不安な気持ちが恋の顔に出ていたのか、小雪は明るい声でそういう。
あくまで演技だ、とそう言いたいらしい。
「辛くなったら言ってよー?俺たちも手伝えることは手伝うし!」
「そうだよ。翔也さんにもお願いするなら、僕たちにも手伝わせて。」
明希と千秋も明るい声でそう言ってくれた。
「お、登場人物の人数が増えれば増えるだけ台本に近いことができるからいいかもね!」
「そうと決まったらみんなで台本読みだー!」
「小雪さんもやるんですか?」
「ローデンスに帰るまではね!」
「ほら、恋ー!台本!!」
明希に促され、恋は台本を出す。
真ん中に広げ、4人で目を通す。その内容は、こんなものだ。
物語は主人公・ハルアキ(赤津琉)の病気が発覚するところから始まる。
ハルアキは、記憶を司る神経の病気で、毎日少しずつ、記憶がなくなっていく。それは、人との関わりだったり、日常生活のことだったり、過去の記憶だったりする。
ハルアキは、そのことを恋人や友人、家族にも隠し通すことを決心する。
最初に異変に気付いたのは、ハルアキの親友、イチタ(木之本翔也)だ。
高校の時の同級生で、仲の良かったタツトという男と、イチタとハルアキで3人で会った時、ハルアキがタツトのことを忘れていて、イチタは何かがおかしいと気づく。
ハルアキはイチタにだけ、本当のことを告げ、他の人には黙っていてほしいと言う。
イチタは、ハルアキの恋人であり、同棲しているスズヤには言うことを勧めるが、ハルアキはそれだけはできないという。
イチタは仕方なく、ハルアキの言うことに従い、彼に協力することにする。
日に日に記憶が薄れていき、様々なことを忘れていくハルアキ。近所の高校生や、よく行くスーパーの店員、好きだったテレビ番組や、大切な物をしまった場所、よく使う散歩コース、家族のことまでが記憶から滑り落ちていく。
ハルアキは、日記をつけ、何を忘れたのか、それで見るようにしていた。
最初に書き出した、忘れたくないものリスト。
忘れてしまったものにはチェックをつけ、1ヶ月後に残っていたのは、スズヤとの思い出ばかりだった。
一方のスズヤは、ハルアキの様子がどこかおかしいことに気付きながらも、ずっと聞けずにいた。
だがある日、ハルアキの仕事部屋に、コーヒーを持って行こうとドアを静かに開けたとき、ハルアキが泣いているのを見つけてしまう。
ハルアキは、スズヤを思いながら涙を流し、もうこれ以上、忘れたくない。そう呟く。
そして次の日から、ハルアキは、毎日ひとつずつ、スズヤとの思い出を忘れていく。
忘れたくないものリストに最後に残ったのは、スズヤの存在だった。
いつ忘れるか、わからない。このリストに載っていないものも含めて、毎日少しずつ忘れていく。
そしてついに、その日がやってくる。もう、忘れるものは、スズヤ以外ない。
新しいことは記憶できるハルアキの病気では、記憶が一新されるような感じなのだった。
もう、残っている過去の記憶は、スズヤだけ。
最後の日、ハルアキとスズヤは、静かに1日を過ごす。
いつもしていたことをして、いつものように夜を迎える。
いつもと違うのは、眠りにつきたくない、ハルアキの気持ちだけ。
そんなハルアキに、スズヤは、必ずもう一度好きになって、とだけ言う。ハルアキはついに意識を手放し、迎えた翌朝、ハルアキには、スズヤの記憶はなかった。
「…まあ、あらすじはこんなとこだね。この先ももちろんドラマは続いて、最終的にはハルアキはスズヤが大切な存在だったことを思い出すっていうベタな恋愛ドラマだよ。」
台本を読み終えて小雪がそう言う。
「何がきっかけで思い出すんですか?」
「えーとね…あった、これこれ。スズヤの誕生日にあげた、プレゼントの指輪。お揃いのものがあって、それに2人にしかわからない秘密があった、って話。まあベタだよねぇ…」
千秋の質問に、小雪は台本を指差して答える。
「…お揃い、ですか。」
「恋さんもなにかあるの?」
呟いた恋に小雪が不思議そうにそう尋ねる。
「あ…実は…」
「あ、そっか!誕生日プレゼントだな?」
明希がそう言う。
「うん。」
「…もしかしてとは思ってたけど、そのネックレス、やっぱりお揃いなんだね!」
恋の胸元に見える銀色のチェーン。チャームは服に隠れて見えない。
「どんなのなの?」
「イニシャル入りの、長方形のチャームです。二つ合わせると模様ができて、Destinyって…書いてあります。」
「琉さんキザだわぁ…」
小雪に説明すれば、小雪はそう言って笑った。
「いよいよ物語の世界みたいになってきたね。」
「…急に緊張してきた。」
千秋の言葉に恋も気が引き締まる。
「だいじょーぶだよ!今月末までの話だし!そもそも琉さんが気持ちをつかめたら途中で終わりにしていいんだし。」
「そうですね…まあ、俺はいつも通り過ごすことにします。」
「そうそう、そういうこと!!」
小雪が恋の緊張をほぐそうとしてくれた。
「これを機に琉さんとの仲が深まるかもしれないしねぇ。」
「そっか、それもあるかもね。」
「う、うるさいっ!!」
明希と千秋の言葉に、恋は照れて、顔を赤く染める。
次の日から、琉はハルアキとして、恋はスズヤとして過ごし始めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
239 / 832