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〜恋side〜
9月19日
台本通りの生活を始めて2週間。
だんだん、琉の表情が、辛そうなものが増えてきた。
小雪はローデンスに帰国し、今は琉と恋の二人暮らしに戻った。
琉はドラマの撮影に行き、恋は今日は仕事が休みのため、家にいる。
(琉さんが帰ってくる前に部屋の掃除しないと。)
恋はそんなことを思いながら、2階に上がる。
まず寝室を掃除して、その他の部屋に取り掛かる。
いつも、翔也と明希が泊まる部屋を掃除していた時だった。
「ん…?」
ベットサイドの引き出しを開けるとそこには一冊のノートがあった。
「これって…」
それは、琉がハルアキとしてつけ始めた日記だった。
恋は、スズヤならどうするだろうか、と考えた。
そして、自分ならこれを開いてしまうだろう、と思う。
以前、恋の思ったままにやってみたほうがいいと言われたことを思い出し、恋はそのノートを開いた。
1ページ目は、忘れたくないものリスト。
恋はそれを見て、驚きで固まった。
{忘れたくないもの}
母さん、父さん、奏、煌
家族との思い出
実家の位置
小雪
紘さん、千秋くん
2人との思い出
翔也、明希くん
2人との思い出
鈴木夫妻
近所の公園
近所のスーパー
ファミレスR
事務所
仕事の関係者
仕事のこと
恋と出会ったこと
恋と出かけたこと
恋を好きなこと
恋の誕生日
恋の好きなもの
恋の怖いもの
恋と過ごしたこと
恋自身
羅列された言葉は、すべて琉の周りのことで
ハルアキのものではなかった。
最後の8項目は、すべて恋のことに関するもので
恋の目からは涙が溢れた。
「…琉さん…」
恋は涙を拭って、次のページを開く。
9月5日から、その日記は始まる。
9月5日
今日はまだ、恋のことを覚えている。
でも小雪という友人のことを忘れた。最初の忘れたくないものの中に入っていたのに。
9月6日
今日は恋の仕事先を忘れた。
ファミレスらしい。多分、忘れたくないものに書いてあるファミレスのことだ。
朝起きると何か忘れているらしい。でも誰かに言われるまで何を忘れているかわからない。怖い。
9月7日
今日は近所のことが思い出せなくなった。
いつも使ってたスーパーとか、恋と散歩に行ったことがあるらしい公園とか、恋と行った記憶だけはあって、それがどこだったのかわからない。
9月8日
今日は、鈴木零さんと鈴木遥さんがわからなくなった。電話帳に載っている名前なのに、知らない。
この人たちとは、どんな関わり方をしたのかな。
どんどん忘れていく。明日は、恋かもしれない。怖い。
9月9日
今日は、朝一で何を忘れているのかわかった。家族のことだ。名前も顔も、実家の場所も思い出せない。
もう、これ以上大切なものを忘れたくない。嫌だ。
9月10日
今日は隣に住んでる人たちがわからなくなった。隣の人とは、仲が良かったみたいだ。朝が来るのが怖い。また何か忘れる。もう嫌だ。
9月11日
今日は事務所や仕事の関係者がわからない。もういっそ、死んでしまいたい。でも、俺が死んだら恋がきっと泣くから、それはできないな。恋、ごめんな。
9月12日
今日は仲の良かった俳優さんを忘れた。翔也ではない。今度は、翔也かも。明希くんかも。恋かも。そう思うと怖い。嫌だ。忘れたくない。
9月13日
また俳優仲間を忘れた。
9月14日
撮影しているドラマを忘れた。
9月15日
ドラマの共演者を覚えていなかった。
9月16日
今までどんな学校に通ってきたか忘れた。
9月17日
何を忘れたのかわからない。
9月18日
また、何かを忘れた。でもわからない。翔也と明希くん、恋のことは、まだ覚えている。
もうこれ以上、進まないでほしい。
昨日の分まで読み終えた恋の視界は滲んで、もう文字を判別できなかった。
忘れるものの順番は、台本通りだ。ということは、今日忘れるものは、翔也と明希のこと。
そして明日から、恋のことを、少しずつ忘れていく。
自分のことが、琉の中から消えていく。
そう思ったらまた涙が溢れる。
床にポタポタと雫が垂れ、恋は手でそれを必死に拭うが、拭ったそばからまた溢れる。
「っ…ひっく…りゅ…さんっ…うっ…」
涙がボロボロ溢れて、止まらない。
もうすぐ、琉が帰ってくる。
今日の自分は、スズヤとしてハルアキを出迎えるのだろうか。それとも、恋として琉を出迎えるのだろうか。
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