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*64
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恋の両親のお墓はあるのかという質問を受けましたので、それに関するepisodeです!
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〜恋side〜
10月12日
「恋、今日さ、少し出かけようか。」
久しぶりの休みが取れた琉が、突然そう言ってきた。
「え…琉さん久しぶりの休みなんですから、体休めたほうがいいと思いますよ?」
「どうしても行っておきたいところがあるんだよ。」
琉がそこまで行きたい場所というのは、一体どこだろう。
「どこに行くんですか?」
「…恋のさ、ご両親のお墓参り。」
まさか、そう言われるとは思わなくて驚く。
今まで、生きることに精一杯で、なかなか墓参りに行けなかった恋だったが、本当は行きたい。
「口約束とはいえ、婚約までしといて、ほんと今更だけど、ちゃんと挨拶しておかないとさ。」
琉がそう言ってくれたのは恋にとってはものすごく嬉しいことだった。
「いいんですか…?」
「いいもなにも、行かないと。恋とこれからも付き合って、結婚まで考えてんだからな。」
「ありがとうございます…」
「うん。行こうか。」
恋はこくりと頷いて、準備をすると琉とともに家を出た。
30分ほど電車に揺られ、大きな霊園に着く。
ここに来るのは、AV男優を始めることになった16歳の時以来、4年ぶりだった。
「緊張してる?」
琉と繋いだ手に、力が入っていたらしく琉が手をさすってくれる。
「…少し。」
琉はいつもとは違うダークスーツに身を包み、恋とお揃いのネックレスをつけてくれている。
「…行こうか。」
「はい。」
霊園に足を踏み入れ、おそらく自分の代わりに両親の墓を手入れしてくれていたであろう管理人に会いに行く。
「…ご無沙汰しています。」
「…青木、くんかい?哉太さんと璃子さんの息子の…恋くん?」
「…はい。」
「やっと、来れたのかい?しばらく、来れなくなると言っていたが…生活のめどは立ったのか?」
管理人は目に涙を滲ませて、恋を心配してくれる。
体は大丈夫なのか、ちゃんと食べているかなど、いろいろなことを聞かれた。
「そちらは…?」
「…俺の…大切な人です。」
管理人はそれを聞いて、驚いた表情を浮かべ、その直後に嬉しそうに笑った。
「そうかそうか…恋くんも…やっと笑って幸せを手にできるようになったか…」
しみじみとそう言い、また涙ぐむ。
「これでやっと、あの二人も安心できるだろう…恋くんを、大切にしてやってください。」
管理人は琉に向かって頭を下げた。
「もちろんです。お約束します。」
琉も深々とお辞儀を返した。
「場所は昔と同じだからね。中は少し変わったけど、同じ場所に、眠っているよ。」
管理人にそう言われて、琉と二人でさらに中に進む。
「両親の命日は、いつなんだ?」
「実は、明日なんです。」
「…ははっ…それはびっくりだな。」
「だから、今朝は驚きました。」
よく晴れていて、涼しい風が二人の横を通り過ぎる。
穏やかな小鳥のさえずりが聞こえ、琉が左手に持っている花の香りが漂う。
「これからは毎年、来ようか。」
「…いいんですか…?」
「許してもらえたら、俺のお義父さんとお義母さんになるんだぞ?」
琉はそう言って笑う。
「…ここです。」
青木家之墓
と、文字が彫ってあり、やはり管理人が手入れをしてくれていたらしく、墓石は綺麗だった。
線香と花を供え、琉が膝をついて目を閉じる。
恋も隣に膝をついて、目を閉じた。
「…息子さんと、真剣にお付き合いさせていただいています。赤津琉といいます。ご挨拶が遅くなり、大変申しわけありません。息子さんのことを、一生大切にします。俺に、息子さんをください。」
琉はそう言って、墓石に頭を下げた。
恋は心の中で、両親に言葉を投げかける。
(…母さん、父さん…来るのが随分、遅くなってしまいました。俺は、琉さんに出会えて、もう一人じゃないんだ。友人もできた。俺…幸せになっても、いいかな?)
目を開けたら、そこで両親が微笑んでいる気がして、そっと目を開ける。
でもそこにあるのは墓石で
代わりに、隣で、愛しい人が微笑んでいた。
「…許して、もらえたかな?」
「…許されなくても…離れられません…」
「…許してもらえなかったら、駆け落ちでもしようか。」
「きっと、許してくれます。父さんも、母さんも、笑って、よかったね、って言ってくれる気がするんです。」
「そっか。」
琉は優しい顔で微笑んで、恋の手を握る。
「また来ます。次は、結婚の報告を。」
「な、ちょっと、なに勝手に決めてるんですか!」
「お義父さんと、男同士の約束だから。」
「俺も男ですけど…」
「ははっ、それもそうだな。」
琉と恋は立ち上がり、少し名残惜しかったが墓を後にする。
もう一度管理人に声をかけて、また来ると伝えた。
"幸せになりなさい、恋。"
"琉くん、約束だぞ。"
出る間際、恋と琉は顔見合わせて振り返る。
「…約束、しちゃった。」
「あははっ、いいじゃないですか、男同士の約束なんでしょう?」
聞こえた気がした声は、秋のそよ風に紛れて、花の香りとともに消えていった。
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