アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
*280にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
*280
-
〜紘side〜
7月12日 金曜日
久しぶりに休暇が取れ、紘は家にいた。
しばらくパソコンを叩き、資料を作っていたが、キリがつき、ぐっと伸びをする。
「…今日は千秋は遅いのか。」
ふと開いたスマホに、千秋から、帰りが遅くなる、という連絡が入っていた。
なんでも楓と寄り道をして、そのまま夕食を食べてくるらしい。
ここ最近、千秋の表情があまり明るくない。
こうして、少しでも誰かと過ごせているのならいいが、紘としては心配だった。
1人で抱え込んで、辛いことを溜め込んでいるのではないかと、そう思うのだ。
「もっと頼って欲しいけどな…」
ポツリと呟いた声は、1人の部屋に虚しく響いただけだ。
「…にしても、1人か。」
休みの日は、大抵千秋が夕飯を作ってくれて、それを一緒に食べる。
普段も夕飯は千秋が用意してくれているから、1人で食べることは滅多になかった。
自分で作るにしても、紘はほとんど料理をしたことがない。
烏沢邸にいた頃は、シェフがいたし、こちらに来てからは千秋が作るか外食か、もしくは恋たちと一緒に食べているので、紘がキッチンに立つことはまずない。
「…おとなしく外行くか。」
1人で外食というのも寂しいが、自炊すれば悲惨なことになりそうだった。
夕方まではテレビを見たりしながら、適当に時間を潰し、Tシャツとジーンズに着替えて、紘は外に出た。
フラッと歩きながら、何を食べるか考える。
(案外いろんなものがあるんだな…)
ラーメン屋や、ファミレス、ファストフード店など、店は豊富だが、そのほとんどが、紘は入ったことがない店だ。
幼い頃から、外食といえばレストランで、それも高級レストランと呼ばれるようなものだったと思う。
千秋を連れて行くのも、予約制のレストランが多い。
(たまには入ってみようか…)
知らないものに挑戦しよう、と思い、紘が入ったのは牛丼屋のチェーン店。
「…牛丼を…」
カウンター席に座り、店員を呼ぶ。
たったこれだけで、かなり緊張してしまった。
「普通の牛丼でよろしいですか?」
「え…他にも、あるんですか?」
「はい。こちらにある通り、トッピングがございます。」
「……普通で。」
「サイズは並でよろしいですか?」
「…はい。」
他にもメガ盛りやらなんやらとあったが、紘は結局普通の牛丼の並を注文した。
「お待たせしました!」
5分も経たないうちに牛丼は出てきて、紘は驚いた。
「い、いただきます…」
小声でそう言い、割り箸を手に取る。
何もかもが新鮮で、緊張はするが、なんだか楽しい。
「んまっ!」
牛丼など食べたことのなかった紘は、世の中にはまだ、こんなに美味しいものが残っていたのかと思った。
パクパクと次から次に口に運んで、あっという間に完食する。
今度は千秋も連れてこよう、と考えつつ、会計を済ませ店を出る。
ちょうどそこで、楓と一緒にいた千秋に会った。
まさかこんなところで会えるとは思わず、紘は嬉しくなった。
「ちあ……」
「楓、早く行こう。」
名前を呼ぼうとした時、あからさまに目をそらされ、無視された。
(え…?)
「あ、うん…」
楓とすれ違った時には、鋭い視線を感じた。
千秋は、間違いなく紘に気づいていたと思う。
もしかしたら、友人と一緒にいるのに、邪魔をして欲しくなかったのかもしれない。
そう考えて、自分を納得させようとするが、モヤモヤとした感情が、次第に紘の心の中を支配していった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
486 / 832