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〜恋side〜
「…千秋?」
みんなが固まって動かない中、恋は千秋に近寄って声をかけた。
千秋は泣きそうな顔を上げて、ぎゅっと恋に抱きついてきた。
「よ、よしよし…何があった?」
「千秋、大丈夫だよー…」
明希も千秋をよしよしと撫でる。
「とりあえず、車に行きましょっか?」
翔也にそう言われ、千秋を連れて、琉たちが乗ってきた車に入った。
「千秋…何があったか教えて?」
恋はできるだけ優しい口調でそう言う。
千秋は俯き、唇を噛んで、ぎゅっと拳を握っている。
「千秋…俺たちに話せない?翔也さんたちに聞いて欲しくないなら、外に出ててもらう?」
明希が千秋の手に、そっと自分の手を重ねてそう言う。
「…恋、と…明希に…話す…」
紘が辛そうな顔をしたが、恋は琉にアイコンタクトをとって、紘をつれて、外に出てもらった。
「終わったら教えてね。」
翔也が優しい声でそう言うと、千秋はコク、と頷いた。
そのあとすぐ、翔也も外に出て、車内は3人だけになる。
「千秋、ゆっくりでいいからな。」
「なんなら俺たちにも話さなくても、落ち着くまでこうやってよう?」
明希は千秋の背中を優しくさすりながらそう言う。
楓のあの言い方から推察するに、楓は烏沢財閥に、相当な恨みがあるように思えた。
烏沢俊蔵の悪事の被害者であることに、まず間違いはないだろう。
裁判を起こした時に、起訴内容は伝えられたけれど、恋はそのほとんどを聞きたくなくて聞いていない。
琉なら何か覚えているかもしれないけれど、楓に何があったか聞くのは、千秋からが1番早いだろう。
「…ちゃんと…話す、よ…」
千秋がこう言っていることだし、ゆっくりでも、きちんと話を聞きたい。
もしかしたら、自分が役に立てるかもしれない。
恋はそう思っていた。
恋は、紘を憎んだりしていない。
それは、紘がどんな人なのか知っているし、俊蔵の悪事のほとんどを、紘が知らなかったからだ。
知っていた悪事に関しては、なんとか救い出そうと手を打っていたことも、千秋から聞いた。
紘も被害者であると、恋は思っている。
楓はきっと、表面だけしか知らない。
本当の紘を知れば、きっとわかってくれる。
そうも思った。
「楓、は…僕と同じなんだ…」
千秋が小さな声で、そう言った。
恋も明希も、意味がわからなくて、首をかしげる。
「僕の、家族は、火事で死んだ、でしょ…?楓も、同じ、なの。」
そういうことか、と思った。
楓の家族も、きっと烏沢財閥の何かを知ってしまって、恋の両親や、千秋の家族と同じように、俊蔵に口封じされたということだ。
「僕の、事件のことも…知ってた。それが僕だって、言えなくて…紘さんと付き合ってることも、言えなかった…」
千秋は、結果的に、楓に全てを隠すことになってしまったのだ。
「紘さんにも…こんなこと、言えなくてっ…楓と、いるとき、紘さんを、無視したり…僕…最低だ…」
そう言った千秋の瞳から、ポロッと涙が溢れる。
それは次から次に溢れて来て、車のシートにシミを作っていく。
「千秋…千秋は悪くないよ。」
千秋をぎゅっと抱きしめて、優しく頭を撫でる。
「紘さんのこと、傷つけたくなかったんだろ?楓の話したら、紘さん、気にすると思ったんだろ?」
「…っ…う、んっ…」
「楓に話せなかったのも、楓が友人として大切だったからだよな?」
「う、んっ……」
「千秋は何も悪くないよ。辛かったな。」
「っぅ…ぅ…あっ…あぁぁぁっ…ぅ、うぁぁぁ!」
声を上げて泣き始めた千秋を、ただ抱きしめることしかできない。
千秋の辛さは、恋には計り知れなくて、どれほど傷ついたのかも、わからない。
1人で抱えて、ずっとずっと、悩んできたんだと思うと、胸が締め付けられた。
「千秋…大丈夫だよ。」
明希も千秋の手を握って、優しい声でそう言う。
千秋は明希のその手をぎゅっと握り返して、肩を震わせて泣き続けた。
紘も楓も大事。
だからどちらにも、真実を話せない。
結局、千秋が1番、傷ついてしまった。
「大丈夫…大丈夫だから…」
少しでも千秋が楽になるように、と、それだけを祈って、恋は明希と2人で、千秋に寄り添った。
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