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蓮 (蓮視点) 1
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「あの・・・すみません。今日予約をお願いした・・・」
恐る恐る入った店内は適度に混雑しているが、決してざわついてはいない。そこにある空気が、初めて足を踏み入れた俺を歓迎してくれているのがわかる。
「田上様ですね、伺っております。こちらへどうぞ」
あ、今日会った人とは違う。なんだか可愛い。男性に可愛いって失礼かな、でも親しみやすい笑顔。
「お連れ様は?」
「あ、田上は・・・少し遅れます」
先に行っていろと言われた。すぐに来るはず。
「ハル、奥のテーブルにご案内して」
え?ハル?この人の名前・・・波留と同じなんだ。「はる」可愛い人につく名前なのかな。帰ったらザックに教えてあげよう。何故か知人のような気がしてほっとする。
それでも用意されたテーブルに座ると緊張する。別に外食の経験がないわけじゃない。けれど、一人でオシャレなレストランって・・・。
誰も見ていないのに周囲の視線が気になる。落ち着かない。これでメニューでも出されて「何になさいますか。」なんて聞かれた日にはどうしたらいいんだろう。
「ふうっ」と、ため息が出た。
昼間会った武本さんがテーブルに近寄ってきた。背筋が伸びる。
「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」
「えっと・・・あの」
「お連れ様がいらっしゃるまでお待ちになりますよね。よろしかったらどうぞ。こちらはやはり寒いですか。」
「あっ、ありがとうございます。」
とびっきりの笑顔を添えて、ことんとカップに入ったスープがテーブルに置かれた。
カチコチになっていたのは緊張だけじゃなくて寒かったんだと気がついた。スープを手に取ると温かさが指先からも伝わってきた。何だろうこれ?いい匂いだけれど。こくっと飲むと優しい味がする。
「やっと笑顔になられましたね。そちらはゴボウのポタージュになります。お店からのサービスです」
背の高い男性にそう声をかけられ自分がしかめっ面をしていた事に気がついた。
優しい時間が過ごせますって本当だったんだと思った時、ドアが開いて田上さんが首をすくめながら入ってきた。
あ、やっぱり寒いんだと思う。あのコートは俺の選んだコートだと言う。まだ付き合う前だと聞いた。
こんなに似合うものを選ぶなんて、俺はきっとその時から田上さんの事が好きだったんだと思う。
失ってしまった記憶はいつかは取り戻せるのだろうか。時折不安に襲われる事もある。それでも日々穏やかに過ごせるのは田上さんのおかげなのは間違いない。
田上さんに出会った頃の俺は、今日の俺たちを想像することは出来たのだろうか。
「蓮、お利口さんにしていたか?」
「えっ?!」
いきなり名前で呼ばれて驚く。外でわざわざ二人の関係をオープンにするつもりは無いと言うのに。
「蓮、心配しなくて良い。大丈夫だよ」
そう言って笑うと田上さんは仕事の顔じゃない、俺だけの匠さんの顔になった。
「武本さん、今日はありがとうございました。本当に助かりました。これはお二人にと思ったのですが」
田上さんは綺麗な花のアレンジを手渡した。そうか、だから先に行けって言われたんだ。武本さんとなぜか目を合わせて一種微笑んだ。
「ありがとうございます」
ん?何だがお互いわかってますみたいな意味深な笑顔だけれどと不思議に思う。
「今日はサンクスギビングですから、シャンパンと一緒にターキーハムを少しいかがですか?」
「そうですね。今日はメニューはお店に一任したいのですが、良いですか。蓮も私も食べられないものはありません。蓮、それで良いね?」
向かいの席に座った田上さんは俺の手の上に冷えた手を重ねて乗せた。
「暖めてくれる?」
重ねられて手は冷たいはずなのに、そこから痺れにも似た温度が全身に広がって行く。
慌てて周りを見渡す。誰も俺たちを気に留める様子もない。
自然に愛しい人と過ごせる時間、こんな素敵な時を与えてくれた神様に感謝しなくてはいけない。
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