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【番外編】金と黒 19にしおりをはさみました!
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【番外編】金と黒 19
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けほけほと咳き込む凛。健人は心配そうに背中をさすっている。なにか会話しているのが見えるが、内容までは聞こえてこない。
この手で、凛の頬を叩いた。この手で、凛の首を絞めた。いまだに手は反動で痺れているし、絞めた時の感触も鮮明に思い出すことが出来る。自分は、いったいなにをしているのだろう。
我に返った明はカタカタと震える手を見た。そして、再び健人と凛を見る。
「……やっぱり凛なんだね」
健人は、もう自分のそばにはいない。
震える手をぎゅっと握り締め、明は席を立った。衣類などの荷物をかき集めるように手に取り、個室を出て行こうとする。
しかし、健人がそれを見逃さなかった。
「おい、どこに行くんだよ!」
健人の声が響く。明はその声を無視して個室を出て行き、空いてる場所へと入った。奥側のアメニティに置いてあるタオルを取って身体を拭いていると、健人が追いかけてきて。
「明! お前なにしてんだ!」
「……萎えた。帰る」
「はあ? その前にやることがあるだろーが!」
「俺、終わったって言ったよね。だから帰る」
早くこの場を離れたい。冷静に言葉を紡いでいたが、実際のところは心臓がドクドクとうるさくて、胸も苦しかった。
簡単にタオルで身体を拭き終わったあと、下着に脚を通す。すると、健人が明の手首を掴んで個室から出そうと引っ張った。
「来いよ……! 凛に謝るくらいしろ!」
また凛。その名前はもう聞きたくない。健人からその名前が出ると、胸が引き裂かれそうで、余計に苦しい。
明は、健人の手を大袈裟に振り払う。
「は? 俺、あいつになにかした?」
声が震えている。なぜかそれが可笑しかった。なにを恐れることがあるのだろう。健人とはもうこれで終わりなのに。
笑いが込み上げて肩を揺らせば、健人は怪訝そうな表情をして口を開く。
「どうしたんだよ、お前……なんか変だぞ」
「スパンキングに首絞めたらアソコ締まるかなって思って。プレイの一つでしょ?」
「冗談言ってる場合かよ……凛は怪我してんだぞ!?」
「だから? そもそも3Pを始めたの健人でしょ。健人が責任を持って、あいつのそばにいてあげれば?」
「お前なあ……! あー、もういいわ。言うだけ無駄だし……帰るなら帰れよ。そんで、ここにもう来んな。お前の顔なんて二度と見たくねーわ。勝手にしろ」
健人が個室を出て行く。
その背中を見つめる明は、すでに笑ってはいなくて、切なげな表情をしていた。待って、行かないで。いつまでも未練たらしい自分は、なんて愚かなのだろう。下唇を強く噛んで、気持ちを無理やり押し込むと素早く着替えることに専念した。
服を着替え終わると、明は逃げるようにバーを立ち去った。
駅に行って、家に帰って……。数分歩いたところで足を止める。このままでは物足りない。このぽっかり空いた虚しいものを、なにかで埋めたくなった。
その時──。
「明……!」
振り向くと、走ってこちらに向かってくる祐馬がいた。まさか誰かが追いかけてくるとは思っていなくて、祐馬の姿を見た明は目を丸くする。
祐馬は明の元までやってくると、「良かった」と安堵して笑顔を見せた。そして、明の頬に手を伸ばして。
「大丈夫?」
と、聞いてくる。祐馬は明の心配をしてくれている。凛ではない。そこで、今まで我慢してきたものが崩れ落ちた。
ぽたり。明の瞳には涙が溢れ、頬を伝いながら落ちていく。明は恐る恐る濡れている頬を指先で触れる。すぐに離してその指先を見れば、泣いていることをようやく実感して驚きを隠せなかった。
「明……」
「あれ……俺、泣いてるの……?」
なんで?
祐馬に問おうとした時、瞬時に明の身体は祐馬に引き寄せられて、包み込むように抱き締められていた。
抱き締められる腕はぎゅっと強い。祐馬の体温が温かくて、心強くて。よくわからないまま苦しいものが込み上げてきて、明の涙腺は崩壊した。
今まで泣いたことなんてあったっけ。そう思うくらいに久しい涙だった。
「抱いて祐馬……なんでもするから、あの時より酷く抱いてよ! 忘れたいの、なにもかも! 消してしまいたい! 優しさなんかいらない……俺を壊してよ!」
明は、祐馬の胸の中で叫ぶ。
そして、祐馬の胸から顔を離すと、口づけを交わした。唇が蕩けるほど何度も角度を変えて、とてもドラマチックなキスだった。そんなお互いが求め合う情熱的な口づけに明は再び涙した。
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