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第4話にしおりをはさみました!
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第4話
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梅雨の季節に入っていたその日は、朝からずっと小雨が続いていて、屋外は勿論オフィスの中も何となく湿って蒸し暑かった。だがエアコンのスイッチを入れれば肌寒くなるので、女性の社員たちは手足が冷えると愚痴をこぼしている。
木曜日には毎週の定例ミーティングが設定されている。いつもは客回りを考慮して朝一番に行うのだが、この日は上司の都合で夕方に変更されていた。フロアの奥にある会議ブースでミーティングに参加中の優留へ、女性社員が社内用の携帯電話を片手に声をかけてきた。
「神崎さん、お電話なんですけど…」
「誰から?」
「その…ご家族の方みたいです」
女性社員の返事に優留はひやりとした。
「家族に職場の電話番号は伝えてないはずなんだけどな。でも会議中だから後からかけると伝えてください」
そう伝えて一旦ミーティングに戻った優留だったが、取り次いできた女性はその後もガラスのパーティションの向こうで何か必死に電話で話している。しかもかなりの困り顔だ。向こうが電話を切ろうとしないのだろうか。その様子を横で見ていた優留の上司が見かねて席を外していいと言ってくれた。優留は一言謝るとブースを出て女性社員から電話を受け取った。
「…優留ちゃん?」
猫なで声の女の声に、ざっ、と優留の血の気が引いた。急いでその場を離れて執務室外の廊下へ出る。
「…何で、あんたがこの番号を知ってんだよ」
「あの人の知り合いが優留ちゃんの会社から車を買ってて、それで偶然わかったのよ。ねえ何で東京に戻ってきてるのに教えてくれないの」
つくづく世間は狭い。優留はあからさまに舌打ちした。
「決まってんだろ、あんたの顔だけは絶対見たくないからだよ!」
「どうしてそんなこと言うの…私、あなたの母親なのよ。あなただけが生き甲斐なのに」
「…俺は」
優留の声はまるで苦痛に呻くように嗄れていた。
「あんたを親だなんて思ってない。あんたのせいで兄貴と俺がどれだけ苦しんできたと…」
電話を持つ手も震えている。もう限界だった。
「二度とかけてくんな」
そう吐き捨てて電話を切った。
優留が真っ青な顔で執務室に入ってきたのを見て、先ほどの女性が心配そうに声をかけてきた。
「神崎さん、ご家族に何かあったんですか」
「…いいや、そうじゃないんだ。すごい悪質な勧誘電話でさ。参ったよ」
「うそ…すみません!私気づかなくて」
「君のせいじゃないよ、あんなに巧妙じゃわかんないと思うし。それよりこの電話、着信拒否できるかな」
「電話を切ってすぐならできるって聞きました。やっておきます!」
それさえ可能なら、誰であれ外部からの電話に社員の個人情報は一切伝えない規則になっているから、多分大丈夫だ…。
優留は呼吸を整えてどうにか平静を取り戻すと、会議ブースへ戻っていった。
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