アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
10にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
10
-
大きい寸胴鍋に小鍋、それから魚焼きグリルにボウルまで使った今日の料理はいつも以上の洗い物だった。
余った肉じゃがをタッパに詰めて冷蔵庫へ並べる。
…明日は来る前にコロッケの材料買ってこないとな。
なんて考えながらリビングで待つ藍川さんへ声をかける。
「片付け、終わりましたよ。」
「お疲れ様です。」
「いえ。それじゃー…俺はそろそろ帰りますね。」
「うん。玄関まで送るよ。」
荷物を持って廊下へ進むと後ろから藍川さんが鼻歌を歌いながらついてくる。
いつもに増してご機嫌らしい。
「いい事ありました?」
「うん。肉じゃがが美味しかったから。」
「それは良かったです。」
玄関までついて靴を履き、中へ向き直ると藍川さんはいつも通り優しく笑っていた。
「ねぇ、小波くん。」
「はい?」
「今日はありがとう。すごく楽しかった。こういう…家庭の味、って食べてみたくて。」
「そんなのいつでも作りますよ。そんな畏まってどうしたんですか。」
「あはは。そうだね。…小波くんと会うのは今日で最後。今までありがとう。君に会えて本当によかったよ。」
「え?…何、言ってるんですか?」
急に言われたことに理解が追いつかない。
藍川さんは変わらずに笑顔のまま俺に手を振る。
何を言ってるんだ?
明日も、明後日も俺は変わらずここに来るはずなのに。
「さよなら。」
「え、…っな、…待ってください…、!」
藍川さんが玄関の戸を開いて俺の体を力いっぱいに押す。
ふらついたまま玄関の外へ出されると、そのまま扉が閉じていく。
どうして
「藍川さ、……」
「…ありがと。」
パタン、と小さな音がして扉が閉じた。
隙間から見えた藍川さんは最後まで笑顔で確かに
"ありがとう" と言っていた。
何もわからないまましばらくそこへ立ちすくむ。
自惚れていた。
キスをして、ハグをして。
お互い好きあっているんじゃないかなんて思っていた。
「藍川さん、開けてください…っちゃんと、聞かせてください!!…俺、…俺、本当に貴方の事が好きなんです…っ今更、…なんで……」
扉をドンドンと叩いても開けてすらくれない。
つい数分前まで笑い会って話していたのに。
こんな事ならもっと大切な話をすればよかった。
好きだとまた伝えればよかった。
触れれば、キスをすれば。
貴方の 気持ちを聞けばよかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
136 / 208