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着慣れたブレザーの袖に腕を通し、洗面所の鏡の前で軽く身だしなみを整える。跳ねた寝癖を軽く直して、まだ僅かに残る眠気を吹き飛ばすように、冷水を思い切り顔にかける。
用意していたハンドタオルで水気を拭い、洗面台に置いていた自身の携帯の電源を入れた。
「やっべ」
ディスプレイに表示された時刻を見て、慌てて洗面所を飛び出した。
玄関に用意されていた弁当箱が入ったランチバッグを引っ掴み、勢いよく玄関の扉を開けて外に出る。朝の澄んだ空気が頬を撫で少し身震いをした。
寒い冬が過ぎ去り春が来たとはいえ、まだ朝は冷える。踵を若干踏んだ白いスニーカーを履き直し、アスファルトの地面を勢いよく蹴った。
※
「よう、朝から汗だくじゃねぇか」
「ハァ…電車ギリギリだったんだって……あっつ」
最寄り駅の改札に定期券を通し、ホームへと続くエスカレーターを駆け上がると、柱にもたれかかりイヤホンをつけ携帯を弄っていた親友、加藤慎吾の姿があった。
慎吾は壮馬の姿を見つけると、走ったお陰で乱れたその姿に小さく笑い、片耳だけイヤホンを外して話しかける。
壮馬は荒くなった呼吸を整えようと肩を大きく上下に揺らし、立ち止まったせいかどっと吹き出てきた汗を拭ってブレザーを脱いだ。
「でもダッシュして来てくれたところ悪いんだけど、遅延で2分遅れて来るみたいだぞ?」
「マジかよー!俺かなり全力で走ってきたんだけど!?」
電子時刻版を指差し、電車に遅れが出ていることを慎吾が告げれば、壮馬はガックリと肩を下ろした。折角急いで来たのに、まだ猶予があったとは。まだ1日は始まったばかりだというのに、本日分の疲れが一気に押し寄せてくる。
「あはは、ドンマイ壮馬」
「くっそぉ…」
壮馬の落胆っぷりに、慎吾は声を出して笑っていた。八つ当たりと言わんばかりに慎吾の肩を小突けば、笑みを漏らしながら「ごめんって」と慎吾が謝る。
加藤慎吾。壮馬が高校に入学して初めて出来た友人であり、自慢の親友である。
色素の薄い髪が朝日に照らされてキラキラと輝いており、同性だが綺麗な顔してるなぁ。と壮馬は何度目か分からないが改めて思う。
文武両道、容姿端麗、頭脳明晰。まさにそんな言葉がピッタリな男であり、社交性もあり紳士的。学校中の誰もが憧れる人物だ。
「慎吾、今年は生徒会立候補すんの?」
「ぶっちゃけ、まだ迷ってるんだけど先生が立候補しろってすごい勧めて来るんだよ」
遅れてやって来た電車に乗り込みながら話題を振ると、慎吾は少し苦い顔をして答えた。
慎吾は1年生の時、担任からの強い勧めで生徒会に立候補し見事当選。約1年間生徒会役員として務めていたのだが、どうやら2年生に進級してからも担当の先生から立候補しないかと強く勧められているみたいだった。
生徒会役員となると、休み時間や放課後も仕事があり忙しい。何かの行事前となると特に。自分の時間が割けられる事が多い為、慎吾はあまり乗り気ではないみたいなのだ。
「頼まれるって事は、それだけ頼りにされてるって事だろ?」
「そうだったら嬉しいけど、折角の放課後の時間を割けられるって結構キツいぞ?終わったらすぐ遊びに行きたい時だってあるだろ?」
「まぁ、そうだけどさ…。でもまた来るぞ?去年みたいに、先生の土下座が」
壮馬がそう告げれば、慎吾は心底疲れたような表情をする。そう、それは去年の春の事。生徒会立候補を頑なに断っていた慎吾に、先生は休み時間中、生徒が沢山行き来する廊下で綺麗な土下座をキメて見せたのだ。何故先生がそこまで慎吾に生徒会入を勧めるのかは分からない。
が、それに折れた慎吾は役員に立候補し、見事当選して生徒会入を果たしたのが去年の話。
「まぁ…、ほら、俺もたまに手伝いに行ったり顔見せに行くからさ。な?」
「……絶対だからな」
宥めるように壮馬がそう言えば、慎吾は大きなため息を漏らした。
最寄り駅から僅か数分歩いた場所に、壮馬達が通う高校がある。正門の傍に植えられた立派な桜の木は、鮮やかに桃色に色づいていた。門を潜り、昇降口へと向かえば、昇降口前には沢山の人だかりが出来ている。
「壮馬、こっち」
ギャーギャーと五月蝿い人混みの間を縫って、クラス替えの張り出しを見る。1組から順番に探していくと、壮馬の名前はすぐに見つかった。
「あ、俺1組だわ」
「マジで。俺の名前あった?」
「いや、ないわ。てことは、今年はクラス別みたいだな」
そう言って他のクラスを探せば、慎吾の名前は3組で見つかった。見事にクラスが離れてしまい、2人の口からは落胆の声が漏れる。
幾ら1年の時をこの学校で過ごしたからと言って、学年全体の人数は3桁を上る。それ故に、全く知らない人物がいる環境に単身で放り込まれるのだ。あちこちからは嘆きの声や喜びの声が飛び交っている。
「うっわ、俺全然知ってる人いないんだけど…」
「俺もだよ…マジかよー。壮馬と離れたのかよー」
2人揃って大きなため息を吐く。だが、今更嘆いたって意味は無い。もう決定した事なのだから。
「はぁ、行こうぜ慎吾。ホームルーム始まる」
「このまま帰りたい」
「そう言うなって、このままずっと会えない訳じゃないんだからよ」
「……そうだけど」
むすっと唇を尖らせる慎吾の表情に、壮馬は何だか新鮮な気持ちで見ていた。何故ここまで嫌がるのだろう。もしかして、クラスに余程嫌いな人物でもいたのだろうか。
そんな慎吾の気持ちに壮馬が気づくのは、そう遠くはない話。
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