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歩いて転んでドキドキキャンプ!11(綾人side)にしおりをはさみました!
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歩いて転んでドキドキキャンプ!11(綾人side)
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"男"と書いてある青い暖簾をくぐった先にある脱衣所は虚しいほどに静かだ。まるでここだけ時間が止まってしまっているかのように何も聞こえない。聞こえるとすれば、自分の息の音と時計の秒針くらいだ。
着替えを入れるカゴが所々ズレていて、少し前までここが賑わっていたことが分かる。男子高校生が集まっているのだ、きっと物を投げたり走り回ったりして騒いだのだろう。
風呂場へと近づくほどにカゴのズレはひどくなっていっていた。人の心理がよく分かる。
わざわざ風呂場から遠いところを好んで選ぶ者は少ないだろう。
かくいう自分も風呂場に1番近いカゴに着替えの服を入れる。少しでも移動の時間は短い方が良い。それに、綺麗なものを汚すより、汚れていたものの方が気が楽だからだ。
山を登ったり雨に降られたり、カレーを作ったりテントを張ったり、今日は色んなことを体験できた。初めてのことばかりで楽しくて仕方なかった。時間がたつのも一瞬だった。
聖夜と創が遭難したと聞いた時は本当に驚いたな。海が『ウチ探しに行く!』と言い出して、皆んなでそれを止めることが1番大変だった。
だって海は力もあるし、体格も良い。もし俺1人だったら止めることなんてできなかっただろうな。それに、探しに行きたい気持ちはよく分かるから、もしかしたら一緒に探しに行ったかもしれない。
だけど楓の『二次災害を考えると私たちが動くことは得策とは思えません』の一言で海を止める方に回ったのだ。
ただ待っているだけしかできなかった時間は苦しかったけれど、聖夜が発見されたことを教えられた時は本当に嬉しかった。創の無事な姿を実際に見て思わず泣きそうになってしまった。
それほどまでに自分の中で2人の存在が大きなものになっていたと言うことなのだろう。
本当ならお風呂も一緒に入りたい。だけど、入ることができない。
鏡に映る自分。栄養の足りていないヒョロッとした体。白い肌に映える青黒いあざ。小さなものから大きなものまであるそれが意味することを誰にも言うことはできていない。言えるはずがない。
『………気持ち悪い…』
自分のことが嫌いだ。容姿も声も全てが嫌いだ。だって気持ち悪いから。
完璧な笑顔に惹かれたらしい人から好きだとか付き合って欲しいと言われることはあるけれど、こんな笑顔が評価されるなんて皆んな見る目がないな。
こんな"作られた笑顔"に惹かれるだなんて。
そんな笑顔を振りまいている自分自身が1番タチが悪い。
光の灯っていない瞳が見つめるのは鏡に映る自分の体。ぽちゃん、と水滴が落ちる音が響く。
早く行かないと心配した皆んなが来てしまうかもしれない。
急いで体を洗い始める。
まるであざを隠すように泡を体に付けていく。
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