アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
何も知らない奏 参にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
何も知らない奏 参
-
ハッとして口を押さえても無駄だった。
月光はにやけながらこちらを楽しそうに見つめていた。
「それで、そんな坂口君が好きと」
「まぁ、そういうことになりますね」
それは口をついて出た言葉なのか、それとも自分の意思で言った言葉だったのか__。
奏は考えたくなくて思考を止めた。
ただ、それだけを答えた。
自分がどんな表情をしているのか、奏本人には分らない。
ただ、驚いたときに血の気が引いたのか、顔の熱がいつもより低いことだけはわかっていた。
月光は一瞬そんな奏の方を見て驚いたような表情をする。
何かあるのかと思ってあたふたしていると、肩に手をかけられ、元の位置に押し戻された。
不信感がわき、疑うような瞳で月光を見つめるも、いつものつかめない不穏な笑みに戻っていて、何かを口に出すことができなかった。
「でもさぁ、思わないのかなぁ、告ろうってさ。
そうそう、告っちゃえばいいんだよ、楽になるんだからさ、みんな」
みんな、という言葉には、おそらく奏も入っているのだろう。
そうすれば吹っ切れる、ということが言いたいのかどうかは、この人間が十分に信用できるかどうかにかかっているのだが、あいにく月光は信用しすぎてはいけない。
月光は、他人が吹っ切れた後に、完全にコントロールしようとするような、最悪な人間だ。
とても質の悪い人間でも、まだそれだけならましといえるような、そんな人間。
質が悪かったのか、それは記憶を失っているので全くわからない。
しかし、その真っ白な空白からスタートして、ここまで真っ黒になることは、果たしてあるのだろうか。
__答えはどうとも言えないが、一つ確かなのは、月光は自分自身を偽っている、ということだけだ。
彼は、悪い人間で在り続けているのだ在り、他人からも、自分からも。
__月光さんは、俗にいう悪い人なんだろうけど、坂口とかとは違って、自分から望んでこの道を歩んでいるんだよな。
……だからこそ、止めれないんだよ。
怖くて。
自分の表情を面白そうに見つめる月光の瞳の中に、一回でも生気を感じたことがあっただろうか。
その瞳はいつも濁っていて、近くを見ているはずなのに、どこか遠い何かを見ている。
それが、奏にとっては怖かった。
「ねぇ、思うよね。
『そんなに好きなら告ればいいものを』ってね」
その言葉を言うときだけ、月光の口がとても下品に見えたのは、果たして錯覚だったのだろうか。
無性に、大きく発されたその言葉に不快感を覚えた。
今までの自分たちを、侮辱されているような気分だった。
だから、あざ笑ってやった。
それが誰に向けてかすら、理解しないまま言葉を発する。
「そんなこと、黒川さんにできるわけないじゃないですか」
単なる事実といえばそれは確かに単なる事実なのだ。
今までの関係で十分満足している自分たちには、もう告白なんてものは必要ない。
だから、今まで同様の関係を維持するため、そんなことをする必要性はない。
ただ、ただそれだけだった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
85 / 139