アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
32話「語った」にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
32話「語った」
-
どうしてこうなったのだろう。
「いやー、たまにはいいんじゃない?」
「たまにはいいわね」
「俺の腹の上で手繋ぐの止めてくれないかな」
どうしてだか急な父さんの提案で、このまま俺の話をじっくり聞こうということになった。なっちゃんも納得して。
そうして何故か3人で、なっちゃんの寝室で川の字になって寝転がっていた。
順番は父さん、俺、なっちゃんの順で、何故か俺の腹の上で無理矢理2人が手を繋いでいるので少し苦しい。
「で、大輝。その子に告白するのか」
「え?ああ、う、うーん」
考えは、さっきからあっちへ行ったりこっちへ行ったりしている。
「いや、付き合えるなんて思ってないんだけど・・あっちにとっちゃ男と付き合うなんて論外だろうし」
「案外そうでも無いかもしれないじゃない」
「希望は捨てるなよ」
俺がひとこと言うと、両隣から返事が返って来る。
何だかこれも面白い。それに流石に、両親に囲まれて寝るなんてもう記憶に無い時以来だから新鮮だ。
「だってさあ・・ほら、俺はこうして2人がいるから・・何かこんな言い方で悪いんだけど、偏見がないっていうかさ。こう、慣れてるんだけど。あっちからしたらそうでもないだろうし」
「まあ、そうだろうなあ」
慣れているんだろう。
父さんとなっちゃんは、俺がこういう言い方をして怒ったことは無い。
「もしかしたら、アイツも女の子が無理とか、そういうのかなぁって思ったりもしたんだけど」
「・・もう少し、アタックしてからにしてみたらいいじゃない」
「え?」
なっちゃんが、チラリとこちらを向いた。
「私とオサムは、まあ・・ハッキリ言って男装バーとかいうそれっぽいところで出会ったし。私は元からそっちの気があったし、オサムもそれっぽかったから確かに話しが早かったわ。でもその子はノンケの可能性の方が大きいんでしょう?」
珍しくなっちゃんは饒舌で、俺はちょっと驚きながらもそっちを向いていた。
疲れていたのかもしれない。父さんの方からは静かな寝息が聞こえる。
「ん・・まあ、」
「だったら。焦らないでもいいんじゃない?」
スル、と髪が撫でられる。なっちゃんの指は長くてしなやかだ。
「ゆっくりでいいの。ゆっくり、確実でいいの。まだまだ色んな可能性があるんだから、大輝。そんなに焦らないで、まずは自分の気持ちを整理して。相手の気持ちをこっちに向けてみることから初めても、いいんじゃない?」
「・・・」
「大丈夫。大輝にはたくさん魅力がある。それを相手にも知ってもらったら良いのよ。まだ話始めたばっかりなんでしょう?色んなことをもっと話してみなさい」
「・・ん」
「告白するなって、言ってるんじゃないのよ」
「うん、わかってる・・・ありがとう、なっちゃん」
「・・もう寝ましょう」
なっちゃんは緩く笑ってくれた。
「うん」と返事をして、天井をみる。いつも見ている自分の部屋と同じ色。同じ柄。
フッと力を抜いて、目を閉じた。
脳裏を過ぎて、瞼の裏に甦って来たのはやっぱり千田の笑顔だった。
眩しいように感じるそれ。優しくて、愛しくて。触れたくなった笑み。
「・・・」
千田が好きだ。
好き。
でも確かに俺はまだ、自分のことをあまり千田に教えていなくて。千田のことをあまり知らなくて。
だから、
(ゆっくり・・か・・)
それでも、いいかもしれない。
ゆっくり、ゆっくり。
俺を知ってもらって、それで・・・それで、
それで
「やっと寝た」
この子が小さい頃、よくそうしていたように。
前髪をどかしながら、額を撫でる。
「・・できたじゃないですか」
「・・偉そうに、」
「俺のおかげですからね」
パチ、と目を開けて。
オサムがこちらを向いて、ニコリと笑う。
「落ち着けば、ちゃんと話せるじゃないですか」
親らしく、と言いたいのだろう。
それだけ言うと、また目を閉じてしまった。
私は視線を移して、もう一度息子を見下ろしてから。
同じように、ベッドに仰向けになって、目を閉じた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
32 / 72