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ちゅうやのねごとにっきにしおりをはさみました!
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ちゅうやのねごとにっき
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前記
私、太宰治は本日付けより、『ちゅうやのねごとにっき』を書こうと思う。今の所、誰かに之を読ませる気は更々ないしどれ程の人数が読むのか全く検討がつかない、つける気もないのだが之を読み始めた人は唐突の題目に驚いている割合が殆ど、否、全員だろう。題目を漢字で表すと『中也の寝言日記』なのだが、敢えて平仮名にしてあるのは之を書くに至った当事者、題目にも表記してある中原中也に恥をかかす為なので特に深い意味はない。ならばの題目の日記を書いた真意は、となると思うので早速此の『ちゅうやのねごとにっき』を書くに至ったまでの経緯を話そうと思う。長くなるだろうが最後まで御付き合い願いたい。
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私が何時もの様に寝ようとした時だった。其の日は疲労からか偶然なのかは解らないがなんだか寝付けず、瞑想中に何となく思い浮かべたのは相棒である蛞蝓こと中原中也の事。
ーそうだ、嫌がらせをしよう。
寝付けないのをいい事に暇つぶしを思いついた私は寝ていたなら顔に落書き等の悪戯、起きていたなら騒ぎ倒して傍迷惑を掛けることを目的に中也の寝室に行った。
中也はまだ十時だというのに口を開けた阿呆面ですっかり寝こけていて、ならば決めていたように顔へ落書きしてやろうと手に敢えて落ちない油性ペンを握ったのだが気配を察したのか顰めた顔がなんとも言えない美しさを醸し出していたものだから悪戯する気が無くなり、かと言って驚かせたい願望はあった為朝起きた時に隣に居たら吃驚するだろうと予測を立て小柄な彼にしては広すぎて有り余ったダブルサイズの寝台の中に潜り込んだ。
嗅ぎなれた匂いとすぅすぅと心地よく聞こえる呼吸音と何処か懐かしさを感じさせる一定のリズムで繰り返される心拍音のお陰で先刻まで寝付けなかったのが嘘のように早々と寝れたのだが、昔からの体質の所為で真夜中に目が覚め、起き上がってしまった。やっと寝れたのに、と自身の体質にどうしようもないと分かっていながらも悪態をつき、物音を立てないようにして寝台から二、三米離れた机の上にある汲んであった水を飲んでいた時だった。
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「ん……ぅ、だざい…」
先程まで自分の寝ていた所から声が聞こえた。言わずもがな言葉を発したのはこの部屋の持ち主、中也である。
コップは口につけたまま、チラと寝台の方を見ると中也はグースカと寝たままだった。即ち先程の声は寝言、ということ。そのまま横目で事を眺めていると寝こけている中也はニヤリと人を嘲笑うかのような表情でこう告げた。
「アフロヘアとは、随分とお似合いじゃねェか」
危うく口内の水を吹き出しそうになるのを死ぬ気でこらえ、その衝動で噎せ返る咳を深呼吸して収める。その後ありもしない有無虚像を口にした相棒の方をキッと睨んだが当の本人と云えば幸せそうな顔をして再び夢の世界へ戻っていっていた。
「私はアフロヘア等死んでもしないよ」
一応の訂正、として耳に入っていないと知りながらも相棒に向かって言い放つ。
寝言ならば仕方ない、と割り切りもぞもぞと寝台に再び潜り込んだ時。
「手前、髪型もヤベェけどその髪型にその格好はねェわ…」
また寝言か。まあこの程度ならば…と私にしては寛容に、云えば早く寝たかったのもあるが瞼をゆっくりと閉じた瞬間
「アフロヘアに花魁服たァ、どう云う趣味してやがる」
言葉を耳に入れた瞬間聡明且つ優秀な頭脳が自身のアフロヘアに花魁服を着ている映像が生成される。慌てて口を抑え、大声で笑い吹き出しそうになるのを本日二度目だが死ぬ気でこらえる。中也だけなら大声で目覚まし時計より煩い位に笑ってやるものの今は深夜、紅葉の姐さんや首領に怒られたらそれはそれで面倒くさい。恨みも兼ねて、そんな趣味はないし第一どんな夢見てるの中也…と溜息を交えながら呟くが、その問いかけに答える人物は一人として居らず、その後は何事も無かったように静かに眠れた。
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翌日案の定隣で寝ていたことに吃驚した中也の間抜け面を拝めたが、隣で寝ていて謎の安心感があったのか夢見が良かった為今後から中也の部屋で寝る事を本人の猛反対を押し切り決定させた。
夜になり昨日の寝言なぞすっかり忘れてスキップで部屋に行き、今回は未だ起きていて出てけだとか一人で寝ろだとか文句を言いつつも何だかんだで布団に入れてくれた中也とほぼ同時に睡眠の波へ旅立った。
……のだが。
「おい広津見ろよ!虹色の草履虫だぜ!」
「はああああぁ?!」
また頭の可笑しい寝言が聞こえ目が覚め、且つ何時もより大きめの声で半分切れてしまった。
そんな生物黄泉の国位にしか居ないんじゃないの。生きていてそんな生物をお目にかける日が来るとは思わない。
あと広津さんを巻き込まないであげて。
そこで思考を止めれれば良いものの想像力豊かな頭脳は果てしなく瞑想を繰り広げる。
自分の脳が優秀である為寝不足気味になったのだが。
その翌日もその翌々日も帽子と意思疎通出来たことの自慢やら身長が二米になったやら訳の分からない寝言は毎日続き、その度に考え事をしてしまう為寝不足は悪化した。
出会った時からしばらく経った相棒が真逆こんなにも寝言が酷いとは。
姐さんに寝言の内容を告げ口しようが首領に寝言減少の相談をしようがクスクスと笑いはするものの寝言くらい我慢しろ、と言われるだけで事の重大さをまるで理解しようとしない。お陰で此方は毎日寝不足だと言うのに。
押しかけた身で何だがもう我慢ならない。恥晒しも兼ねて屈辱を味わわせてやろう、何か良い手段はないか。
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……日記ならば今までの恥ずかしさが一日に一気に降ってくるから中也の表情も一段と面白くなるかもしれない。
唯の日記なら三日坊主は避けて通れない道だが嫌がらせとなれば労力を惜しまない、という従来の性格から毎回欠かさずとは任務や都合上しっかりと断言は出来ないが比較的きちんと書くとだろう。中也の為に細かく書いてやる気など微塵もないので日付、時刻、状況、内容、感想しか書かないが。
以上のことが発端で、私は本日より中也がどんな寝言を言っているのか、書いていこうと思う。
嗚呼あの端正な顔が今度はどんな表情を作り出すのだろう、赤くなる?青ざめる?今から結果が楽しみだ。
-6-
○/○/○ ○○:○○
状況:漸く寝かけた時
内容:「くそっ!どっから湧いてきやがるこの消しゴム共!纏めて塵にしてやる!」
感想:せめて集めて保管しておけばいいのに。
○/○/○ ○○:○○
状況:読書中
内容:「ブロッコリーがエイサーしてる夢見たんだよ」
感想:それが夢だよ中也
○/○/○ ○○:○○
状況:ねおき
内容:「うさぎ!!!!次『ギ』な!」
感想:ギロチン。あさぐらいしずかにして
○/○/○ ○○:○○
状況:部屋に入ったら
内容:「俺、加湿器と冷蔵庫とは友達になれる気がするんだ…」
感想:勝手になっていてくれ莫迦蛞蝓
○/○/○ ○○:○○
状況:眠気が漂ってた時
内容:「御免って、ほんと御免姐さんほんっと御免姐さん(ry」
感想:寝ろ。……寝てるんだった
○/○/○ ○○:○○
状況:昼寝から目が覚めた時
内容:「ふふふふ、ふふふふふ、ひゃはははははははぁ!」
感想:唯唯怖かった。今まで一緒に居て初めて相棒辞めることを本気で考えた。
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○/○/○ ○○:○○
状況:任務前の車内
内容:「あぶねぇっ!!」
感想:運転手が急ブレーキ掛けたよ、何にもないのに。当の本人は知ったこっちゃないと言わんばかりにグースカ寝てるけど、運転手涙目だったんだからね。
○/○/○ ○○:○○
状況:書類整理中
内容:「あ、そこ違ェ」
感想:「あ、ほんとだ。中也の割に細かい所気づいたね。」って言ったら本人寝てた。何?予言?
○/○/○ ○○:○○
状況:読書中
内容:「ぺッペロンチーノおおおおおおお!!!」
感想:そろそろお昼時だなあ
○/○/○ ○○:○○
状況:読書中
内容:「野球しようぜ!お前ボールな!」
感想:どこのジャイ〇ンだ
○/○/○ ○○:○○
状況:深夜帯
内容:「草」
感想:通り越して森?
○/○/○ ○○:○○
状況:昼寝
内容:「パコパコすんなあ」
感想:煩悩よ立ち去れ
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○/○/○ ○○:○○
状況:居眠り発見
内容:「ほぉ……でっけェな、この西瓜…」
感想:※今は冬
○/○/○ ○○:○○
状況:読書中
内容:「首領、流石にそれはないと思います何故なら(以下略)」
感想:うるさいなぁもう!
○/○/○ ○○:○○
状況:水飲んでる最中
内容:「ふへへぇ、もふもふだなぁ……この熊…」
感想:かわっ……いや中也だから有り得ないから
○/○/○ ○○:○○
状況:作戦考案中
内容:「寝耳に水…」
感想:かけてやろうか。……はっ、そうだああすれば敵が効率よく…おっとこれは日記だった。
○/○/○ ○○:○○
状況:休憩中
内容:「此の前凄ェいい葡萄酒買ったんだよ、2つ目のセーフハウスに仕舞っておいた」
感想:盗めって言われてる気がしてならない
○/○/○ ○○:○○
状況:数学
内容:「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり……」
感想:ち が う 単 元
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○/○/○ ○○:○○
状況:自殺算段中
内容:「やるなよ、絶対にやるなよ…」
感想:フリかな?なら中也の車の中で一酸化炭素中毒死しよう
○/○/○ ○○:○○
状況:任務帰り
内容:「汝、陰鬱なる汚濁の許」
感想:人間失格ううう!!!!
○/○/○ ○○:○○
状況:忘れた
内容:「南無三…」
感想:最早何も言えない
○/○/○ ○○:○○
状況:会議前
内容:「プレイバック!」
感想:吃驚したけど無視したよ
○/○/○ ○○:○○
状況:夜
内容:「ばばんばばんばんばん♪」
感想:あたまだいじょうぶ?……今更か
○/○/○ ○○:○○
状況:昼御飯前
内容:その泣きっ面が見たかったんだよ俺はァ!
感想:Sなの?
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○/○/○ ○○:○○
状況:首吊り前
内容:「Gが出やがったああああ!ー!!」
感想:Gが出たのはほんと嫌だけどナイフ投げないで縄切れたじゃないか…
○/○/○ ○○:○○
状況:昼寝
内容:「え、首領熟女好き…」
感想:天変地異だ
○/○/○ ○○:○○
状況:夜更かし
内容:「月曜日がはじまんでー」
感想:此処って北海道だっけ?
○/○/○ ○○:○○
状況:移動中
内容:「汝、陰鬱なる汚濁の」
感想:デジャブそして人間失格!!!!!
○/○/○ ○○:○○
状況:夜
内容:「おい太宰、こんな話知ってるか?昔の山奥で」
感想:怪談丸暗記って…
○/○/○ ○○:○○
状況:報告帰り
内容:「一度はよくってよ!」
感想:なにあれなにあれなにあれ中也のお嬢様口調可愛くない!?……だめだ。もう。
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○/○/○ ○○:○○
状況:掃除中
内容:「何をしているのかね、太宰君」
感想:中也がこんなに声真似が上手かったなんてっ…
○/○/○ ○○:○○
状況:起床
内容:さむい…
感想:……首領、会議サボりまぁす
○/○/○ ○○:○○
状況:読書中
内容:「斜め77度の並びで泣く泣く嘶くナナハン7台難なく並べて長眺め」
感想:なんで読んでる本バレたの
○/○/○ ○○:○○
状況:夜這いしに来た時
内容:「だざいぃ、なたな顔に八つ橋ついてんぞ〜抹茶味…」
感想:思わず自分の顔を撫でくりまわした。が、矢張りついてる理由なかった。抹茶味っていう拘りはなんなの。別に緒古齢糖でもいいじゃない。
○/○/○ ○○:○○
状況:昼寝中
内容:「昼夜逆転」
感想:性転換想像した私って
○/○/○ ○○:○○
状況:徹夜中
内容:「何時まで手こずってんだ莫迦野郎、偶には休めよ?」
感想:あーもう犯そうかなぁ、どうしようかなぁ
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○/○/○ ○○:○○
状況:報告帰り
内容:「きもち……」
感想:おさむくんいいこだからおちつこうまだだめだ
○/○/○ ○○:○○
状況:暇
内容:「山芋タルト……?」
感想:つくってくれるの!?
○/○/○ ○○:○○
状況:いたずら
内容:「もっとだっ!」
感想:マゾなの?大歓迎だよ?
○/○/○ ○○:○○
状況:書類整理中
内容:「このプリンすげぇ美味いんだぜ!」
感想: か わ い い
○/○/○ ○○:○○
状況:書類整理中
内容:「あ、、エスカルゴ食いてぇ」
感想:下手物好きでも私はいいよ…
-13-
○/○/○ ○○:○○
状況:
内容:「おいて……いくなぁ、」
感
止めてよね、そんなこと言われちゃあ…揺らいでしまうじゃないか。誰に向かって云ったか解らないけど、変な所でタイミング良いよね、君って。
もうこの日記は必要ない。ここに置いていく。出来ることなら、面と向かって別れを告げたかったし、結局この日記の目的である君の表情も見れず終いだ。……名残惜しさを感じちゃ駄目。ごめんね、中也。それと最後に。君を愛してる。いつかまた逢えるかは解らないけれど、、、
____________________________
最後の記録は途中で破られており、その次のページに水で滲み読みにくくなった文章を最後にその日記は時が止まっていた。
「手前も随分莫迦だよなァ」
読み終えた感想、にしては短く成立しており、随分と感慨深い文章に思えた。
物音を立てない程静かに日記を閉じると深くため息をつき、高級感溢れる黒革のソファにもたれ掛かる。
読んでいた人物、そしてこの日記に書かれていた本人、中原中也は何を思ったのか何も無い真っ白な天井に向かって小さな笑みを零した。
「何笑ってるの、気味悪いなぁ」
どこからともなく聞こえる声。特に振り向きもせず低く甘い声に耳を傾けると、座っていたソファにかかる質量が増す。ギシリとソファが鳴り、頭の後ろの背もたれに手が回された。
「手前と俺の黒歴史日記を読み返してたんだよ、太宰」
視線だけを座った人物に向け、ニヤリとほくそ笑む中也。
それは見たら分かるよ、と机の上に置かれた日記をジトと睨み、顰めっ面をしながら隣に座ったのは、書いた人物である太宰だった。
「なんでいつまでも持ってるのさ…」
「置いてった手前が悪い」
早く処分して、と喚く太宰を前に所有権は既に俺にある、観念しろ。とせせら笑いながら重心をソファの背もたれから太宰に替え、物思いに耽る。
太宰がマフィアを去った翌朝、中也はこの日記を読んだ。
赤面はしたし、穴があったら入りたいという感情を心の底から感じたのだが最後に綴られていた日記、それで感情は全てどこかへ行った気がした。何故ならば。
「想い人の自分に対する恋愛過程が書かれてるものなんて、捨てられる訳がないだろ」
最初は酷かったと思われる寝言だが、精神的な成長のお陰か日が経つにつれてその回数は徐々に減ったのだろう。それに成長すれば任務が多くなり徹夜続きだったりするため、元々薄い日記帳は数ページしか使われていない。しかしページが進むにつれて、文句や反論まみれだった感想の欄は、いつの間にか中也への愛を語る場所となっていた。
そう、これが中也だけの黒歴史となるはずだった日記に記されている太宰の黒歴史。故に捨てたがっている訳だ。
とはいえ、中也も何時ぞやから太宰に恋をしてしまっていたのだから両想いと知った切っ掛けになったこの日記は恥ずかしくも手放せる訳が無い。
(気づいてねェかも知れねェが、此奴多分会った時から俺の事好きだよな。)
前記として書かれていた文に時々あった褒め言葉。俺と違って無意識にああいう事云うから恥ずかしさを隠すこっちの身にもなって欲しい。
あれ程に悩んだこの恋は意外と単純で、もっと早くに悩みは無くなっていたのかもしれないと思うと少し複雑な気分になるのだが。それも最早後の祭りだし、太宰がマフィアを抜けてから四年、誰も知らない間にこっそりと落ち合った二人は互いに告白し、現在は仲睦まじくとは言い難いが恋人同士らしく、幸せな生活をしている。
「然しまあ、嬉しさに読み返す度に俺も一々気分が落胆しなきゃなんねェってのは、随分と出来た嫌がらせだなァ」
「後付けの嫌がらせとはいえ、そこは私らしいよね」
二人で顔を合わせてくすくすと笑う。
そのままの流れで改めて日記について話す。
更に笑いが起こる。
話しては笑い、思い出しては腹を抱えた。
話に区切りがつき、ようやく落ち着くと太宰が口を開く。
「……今日蟹食べたいな。」
「此の前食ったばっかだろ」
「だって中也の手料理美味しいんだもの」
「……蟹玉と鍋どっちがいい」
「かわいいなぁ!もう!今日は鍋が食べたい、!」
……先述した事を訂正させて頂こう。之を仲睦まじくと言わず何という。
日記似合ったような初期の殺伐とした関係が嘘のように、二人を纏う空気は優しさに満ち溢れていた。
さて、作るか。と立ち上がり料理場へ向かおうとする中也だが、太宰に呼び止められ振り返る。それとほぼ同時に顎をすくいとられ、口を塞がれた。啄むような優しいキス、それにより辺りは自然と甘い雰囲気に変わる、太宰が舌を入れようとし途端、腹部に鈍い痛みが走った。ぐふ、と空気と共に低い声を出し思わずその場にしゃがみ込む。言わずもがな、その痛みを与えたのは理性がしっかりと残っていた中也で、悶えている恋人を一回鼻で笑った後、そそくさと椅子に掛けられていた紺色のエプロンを付け台所に向かった。
「幾ら何でも鳩尾は酷いんじゃない!?」
「一生斃ってろ年中発情期野郎が」
再訂正、三度目の正直。矢張りこの夫婦恐るべし。
しかしこの温度差も、対応も太宰は愛おしく思っていた。
愛おしく思いつつも腹は痛いもので。
演技も交えながらうじうじとその場で拗ねていると、溜息をつき、中也は太宰に挑発した。
「夜まで我慢な?ダァリン」
言葉を吐き捨てるとまな板に向き直り、鍋の材料を冷蔵庫から取り出す。
太宰はと云えば急な嫁のデレに思わず間抜け面を晒し、その場から動けずにいた。
「くっ、してやってくれるじゃないの。ハニィ」
その後ろ姿を眺め、今晩の算段を立てていることを、中也は知る由もなかった。
翌日。まだ朝日が登っておらず、薄暗い明け方。
寝静まった筈の室内に何方かの声が響き、数十秒後またもや何方かがゆっくりと起き上がった。
本棚の片隅に丁寧に仕舞われていたその日記に、再び手をかける。微かに聞こえる程度の鼻歌を唄いながら単調な構造の机に向かうと一番後ろの頁を開き、新たに何かを書き綴る。書き終わると満足気な表情を浮かべ再び元の場所にそっと仕舞うと、愛しい人が眠る寝台に再び戻っていった。その内容は____
○/○/○ ○○:○○
状況:明け方
内容:「だざい、あいしてる」
感想:私もだよ、中也
あれから時を止められた日記が新たに時間を進め、それを祝福するかのように二人が眠る静かな部屋へ、朝日の一片が部屋を照らした。
〜完〜
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