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59にしおりをはさみました!
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59
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「めんどくさい、って顔してんな」
「 え?」
「 お前。すんごいダルそうな変な顔してる」
そう言って白石くんは指で俺の眉間をちょんと押してきた。
反射的にキュッと目を瞑ると、白石くんはそんな俺の反応が面白かったのか、ケラケラと笑う。
「 そうやって考え込むの癖なんだろうけど、あんまり気にすんなよ。特に俺は人にあれこれ口出ししちゃうタイプの人間だからさ、聞き流しといて。『あー、またなんか言ってんなぁ』くらいの感じで 」
「 そんなこと言われてももう遅いんだけど。嫌でも気にする」
ふーん、と興味無さそうな声を出されて、
この人はどれだけ勝手なんだろうと思った。
でもその勝手さは、自己中心的なものでも利己的なものでもなく、あくまでも「他人のため」が前提として成り立っていて、あんまり嫌な感じはしない。
癪だけど、俺のことを考えてくれてるのが伝わるから悪い気はしない。
「 うける、なんかその顔」
こちらを見てフッと笑ってきたかと思えば、
小馬鹿にするような口調で言われて少しムッとする。
「 はぁ……?」
「 めんどくさがってる時、変な顔するじゃん。眉下げて眉間にしわ寄せて。冷たい目で見てんの、おもしれぇなって。」
「 めんどくさいって思われてるの分かってたんだ…」
あ、思わず本音が口から出てしまった。
ぱっと手のひらで口元を押さえて目をそらすと、彼はまた笑った。
切れ長で少しつり目のまっすぐな瞳。
キラリと光って綺麗だと思った。
「 お前、だんだん素が出てきたな」
「 いや、今のはごめん。ちょっと本音が」
「 ……フォローになってねえ 」
「 まぁするつもりも無かったんだけどね」
真顔で答えると、大きな手が伸びてきてぐしゃぐしゃと髪を乱暴にかき混ぜられる。
白石くんはケラケラ笑って白い歯を覗かせている。
まるで犬扱いされてるみたいだ。
でも嫌じゃない。
こんな風に優しく触れられること。
作り笑いじゃない笑顔を向けられること。
気を使うことなく本心で会話できること。
白石くんと一緒にいると、彼に与えられるもの全てが自分にとってどれだけ幸せなことか実感させられる。
彼は自由だ。
常に色んなものに縛られている自分とは違って、自分の意思で自分の好きなように行動しているように見える。
俺は自ら不自由を選んでいるようなものだけど、それでもやっぱり俺にとって彼は眩しいし憧れる。
自分にはできないからカッコいいと思う。羨ましいとも。
「 …………なんで、いつもあんなにつまらなさそうな顔してるんだろうって、思ってた。」
ふとそう言って白石君が俺の横髪を弄び始めた。
急に彼の声のトーンが変わったのが分かる。
顔を上げると、なんとも言えない苛立ちを含んだような悲しそうな表情が視界に入って、誰の話をしているんだろうと困惑する。
「 綺麗な顔してるのに、全然笑わないし。いっつも無表情でさ……もっと喋ればいいのにって。」
俺が話の内容がよく分かっていないことに気づいたのか、彼はふっと悲しそうに笑いながらお前のことだよ、言った。
「 俺が言うのも何だけどさ、高校生ってもっとはっちゃけてるものだろ。でも、『俺は誰とも馴れ合わねえ』って感じで1匹狼貫いてる訳でもないし。何考えてんのか分かんないのが正直なところ。」
分かられたくもないんだけどな……と少し思った。
いつだって自分の考えていることはひねくれてて、天邪鬼で、性格が悪いことばかりだ。
こんな汚い脳みそを見透かされても困る。非常に。
「 あーあ、もっと早くお前に話しかけとけば良かったなあ」
白石くんが、真面目な顔になってそんなことを言った。
まだ俺の髪をいじりながらも、その手つきはどこか寂しげで、そしてそのあとやんわりと大きな手が離れていった。
俺はなんだか泣きそうになってしまう。
だってそんな悔しそうな顔で言われたら、ちゃんと心からそう思ってくれてるんだなって思う。
少なくとも、この人は俺のことを知りたいと、一緒に居たいと思ってくれている。
その事実がどうしても嬉しくて、でもそれを素直を受け止められるほど俺の心には余裕がなくて。
ただでさえいっぱいいっぱいになって、今にも両手から零れ落ちそうな毎日なのに、その無償の愛情のようなものはどこに仕舞えばいいのだろう。
与えてもらったところでどうせ、返せるものは何も持っていないくせに。こんな空っぽで、だけど面倒なものばかりだけ背負っていてその降ろし方を知らない。
白石くんの優しさは俺には大きすぎる。
そしてもったいない。
「俺も」
って言葉を返したかったけど、
喉の奥で小さくなってそれは声にはならない。
「………いま、一緒にいてくれるだけで、充分だよ」
たしかに本心だったけど、なんだか弱音を吐いているような気になって、格好がつかずに目を合わせられない。
目線を横にそらして呟くようにそう言うと、白石くんがパッと顔を上げる。
「 なんか今グっときたわ 」
「そうやって思ったことすぐ口に出すのどうかと思うよ」
大人びた雰囲気や気が回るところはすごいなと感心していたのに、こういうムード考えずにホイホイ物申すところは如何なものか。
結構真面目に言ったつもりだぞこっちは。
「桜木って、なんか妙〜〜な雰囲気あるよな、哀愁漂うっていうか、すごいしっとりしてる感じ」
白石くんが目だけでこちらを見る。
「あ、もちろん褒め言葉ね 、良い意味で。」
申し訳ないけど「妙な雰囲気」は悪い意味にしか聞こえない。
「良い意味でってつけたら何でも言って良いと思ってる?」
「あ、ばれた??」
「ばれるわ」
ハハッと大きく笑う彼の声が教室に響く。
どうにもこうにもこの人には自分のペースを乱されるばかりだ。
だけどそれが決して不快ではないのが余計に腹がたつ。
こうやって構われて嬉しいなんて、動物みたいで癪だ。
行き場のない悔しさを込めて白石くんをキッと睨み付けると、なんでもなさそうにヘラリと微笑み返された。
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