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melt.1(R-18)にしおりをはさみました!
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melt.1(R-18)
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安い同情はいらない。
寧ろ、同調なんてしてほしくない。
望んでないんだ、そんなこと。
「大丈夫?」
大丈夫なわけねぇだろ。
「無理しないでね」
無理しないと生きていけねぇんだよ。
理解しようとしてくれていることは、わかっている。
心配してくれていることも。
けどさ、無理じゃん。
俺とお前らは違う人間で、違う人に育てられて、違う価値観・環境を持って生きてる。
ほら、だからさ無理だろ。
根本的に理解することなんてできねーよ。
だからこそ、理解しようと努力するんだって、そういう奴もいる。
けどさ、俺が欲しいのはそんなものじゃない。
どうせ理解できないんだから、最初から見ないふりをしてほしい。ただ、一緒にいる時間に、ふつうにいつも通りに、接してくれたらそれが一番。
だから、俺は仮面をかぶることにした。
"ふつうで、皆に理解してもらえる、ありきたりで、大丈夫な俺"の仮面。
そうしたら手間は省けるし。
……ただ、疲れはするけど。
「おーい、トモ!からおけいこーーぜーーー!!!」
がしりと首に絡みついてくる腕に、思わず噎せた。
「っ、え、……けほっ、
……お、まえなぁ〜〜!」
「あっはは、ごめんごめん〜〜」
けらけらと頭の後ろで笑う友人の頭を軽く小突く。
「あと無理。今日はバイト」
「え〜?!またかよ!高校上がってから付き合い悪くねー?」
「金貯めてんだよ」
「何?!さては彼女だな……?!裏切り者め!このこの!」
バカみたいな会話。
能天気なことばっか言って笑わせてくる友人。
やっぱり、これでいいし、これがいい。
「はは、ちげーよ。ま、とにかくそーゆーことだから、またな」
「ちぇー、わかったよまたな」
渋々といった体で手を離す友人にひらりと手を振って、重い腰をあげる。
時計を見ればもう3時半を指していて、慌てて教室を飛び出した。
「…………ッ、は、はぁ……、セーフ……!」
そうしてギリギリに飛び込めば、頭上から降ってくるのは店長の溜息。
「もう、いっつもギリギリなんだから。ほら、はやく着替えて来なさい」
そう言いながらも、苦笑して許してくれる店長の好意に感謝だ。
「すみません、ありがとうございます」
その好意を無駄にしないよう、手早く着替え、乱れた髪を整えてバーカウンターに立つ。
「もうちょっとはやく家を出れば、そんなに慌てなくていいんじゃないの?」
いつもながらそういう店長は、けれどもう無駄だとわかっているのか、形だけの注意をおくってくる。
それも当然のことで、というのも俺はここで働くために年齢を偽って、22歳のフリーターということになっていた。
嘘をつくのは気が引けたが、酒が絡む仕事の方が、時給がいいから。バレない限りは続けるつもりだ。
「すみません、寝坊しちゃって」
「……はぁ、まったく」
「その分働きます」
「そうだね、よろしく頼むよ」
そうして、優しい店長に嘘を重ねて、今日も過ごしていく。
「でさぁ〜〜、あいつ浮気しやがってよぉ〜〜」
「うんうん、こんな素敵な彼氏がいるのに浮気するなんて最低ですよね」
「そーだろー!?お前、わかってんなぁ〜〜」
いつも通り管を巻く客を、いつも通り適当にいなしながら、お酒って怖いなぁと思う。
まともそうな人も、潔癖そうな人も、優しそうな人も。
みんながみんなじゃないけど、酒に溺れて、碌でもないことをまくしたてるから。
俺個人としては、絶対にこんなもの人前で飲みたくない。
「おごってやるから、お前ものめぇ〜!」
気前がいいんだか、ありがた迷惑なんだかわからない客にありがとうございます、いただきます。と愛想よく笑って、水を煽った。
どうせ酔っ払って何が何だかわかっちゃいないし。
そうこうしていれば、あっという間に閉店時間。
クローズ作業をして時計を見れば、深夜0時を指している。
「今日もありがとう、助かったよ。明日もよろしくね」
「こちらこそありがとうございました。明日もよろしくお願いします」
一礼して店の外に足を踏み出せば、体の芯から凍りそうなほどの冷気。
「…………さむっ」
思わずそう呟けば、はき出した呼気は白く染まって。
冬だなぁ、なんて思う。
もうすこしすれば、雪も降るんだろうか。
あぁ、クリスマスもくるな。
「…………うん、がんばろ」
ーーーーやらなくちゃ。
義務感だけで、いつもの場所に、重い足を引きずり向かった。
「……ぁ、ん……あ、」
口から勝手に漏れる、呻き声なんだか、喘ぎ声なんだかわからない声に、うんざりする。
はぁ、きも。
「ふふ、ここ、きもちい?」
はぁはぁ荒い息を吐きながら、一層のしかかってくる客にえづきそうになった。
気持ちよくねーし。重いんだよオッサン。
そんな荒い貧相な腰使いで、よくもそんなことが言えたもんだ。
けどこれはビジネス。
俺の本当の感情なんてどーーーでもいい。
このキモいオッサンは、俺に金を渡すって義務を果たしてるし。
そもそも、このオッサンは、オッサンの為に金を使っているのであって、俺がどう感じるかなんて、本質的に見てどうだっていいことなんだから。
「ん、……い、うなぁ……!」
果たされた義務のお返しに、俺も義務を果たす。アタリマエ。
意識して甘い息を吐いて、嫌悪感で滲む涙を、生理的に浮かぶ涙に見せかける。
「あー、かわいいなぁ」
案の定さらに瞳の熱を上げたオッサンは、スピードを上げて突き上げてくる。
「ん、ん……ぁ、あぁ、ん」
小刻みに溢れる自分の声をどこか遠くに感じながら。
気持ち悪くて反吐が出そうな温もりに、両腕を回した。
「…………ぁ、それ、や、ば…………ぁん!」
それっぽく耳元で囁けば、体内で、膜越しに熱が傍聴したを感じて。
ぎゅうっと両脚を腰に巻きつける。
「…………イ、く……!」
その声に合わせて、ナカをぎゅっと締め付ければ、オッサンは軽く呻いて果てた。
「…………はー、相変わらずやっばいね〜」
「…………ぁ、」
ずるりと引き抜かれる熱に、少しだけ寂しそうに喘げば、オッサンはあっさり発情した顔をする。
「……もう一回、やる?」
「……追加料金発生してしまいますけど、いいですか?」
瞳だけに期待するような光を混ぜながら、でもあくまで業務的な態度は崩さない。
「二万だったっけ?」
「はい」
「わかったよ」
そう呟くやいなや、べろりと首筋に生暖かい舌を這わされる。
「………ッ、」
反射的に上げかけた悲鳴を堪える。
きめーんだよよオッサン。
「今更声なんて抑えなくていいのに。あー、ほんとかわいいよね。クールなイケメンなのに、淫乱なところも。たまんない」
どうやらいいように勘違いしてくれたらしい。
はー、しかし、淫乱ね。
こんなことになるまで、そんな漫画みたいなセリフ言われる日が来るとは思わなかったな。
「気持ちいいの大好きだもんね?」
言葉責めのつもりか、ぴーちくぱちーくうるさい頭を抱え込んで、胸に押さえつけた。
ふ、とかすかに笑う気配がして、今度はそこに生温い感触。
「…ん、」
施される愛撫に、反射的に鼻にかかった声で喘ぎながら。
ただ、この場に不釣り合いなほどにまっさらで綺麗な天井をぼんやり見つめていた。
あーあ、早くおわんねぇかな。
「あ"ーーー、つかれた」
掠れる声でそう呟き、ベッドに倒れこむ。
時刻は午前5時。
明日は学校がないことが、せめてもの救いか。
早く風呂に入って嫌な感触を洗い流したいのに、そんな気力も湧いてこない。
どの男も、泊まればいい。金ならだす。
そう言う。
それは、本当なのだろう。
実際、一晩に五万も十万も、下手したらそれ以上使うような奴らだ。
金なんて有り余ってるに違いない。
けれどこれは、金を使った商売。
出されたものを食べることも、相手のスペースで気を許すことも、あまりにリスキーだ。
素性も知らない相手の前で意識を手放すなんて、正気の沙汰じゃない。
だからこそ俺は、疲弊した体を引きずってでも、このぼろアパートに帰ってくる。
汚くても、何もなくても、ここは俺のスペースだから。
チップと言って受け取った金額も含めて、7万円。
これが高いか安いかなんて、イマイチ判断はつかないが。
『おにいちゃん』
これで本当に守りたいものが守れるのなら、俺にとってはそれで十分だ。
明日は、10時からコンビニのバイト。4時からバーバイトで、そのあとにいつものアレ。
もう動きたくないと悲鳴をあげる体に鞭打って、8時に目覚ましを合わせた。
ついでに布団を敷こうと、そう思っているのに、もう瞼は開かないし、体は言うことを聞かない。
……どーせ三時間だけのことだ。もういっか。
全てが面倒臭くなって、泥のような眠気に身を任せた。
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