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4にしおりをはさみました!
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4
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それから数週間。
七瀬は苦しんだ。
何をして、どこにいても、
あの男の顔が忘れられない。
赤い舌、白い牙、あの描かれた弧。
あの、資料室での、不敵な笑みが頭から離れない。
「七瀬くん、君大丈夫かね。
最近、顔色が良くないよ。疲れてるなら無理することは無いんだよ。」
クラスの委員長も任せれている者として、
担任の書類整理を手伝っている途中、先生からそう尋ねられた。
心配そうな声に逆に焦りを感じた。
「いえ、大丈夫です。何でもないですから。」
七瀬は慌てて笑顔を繕った。
認められる筈が無かった。
16年間生きてきて、今までこんな事は一度としてなかったのだ。
それもあんな、
あんな礼も節も操もない、
くるくる相手を、構わず取っ替え引っ替え引き摺り込むふしだらな男に、
ペースを乱されているなど、
七瀬のプライドが許さなかったのだ。
自分はそういうの野郎とは無縁に、
清く、強く生きてきた筈なのに...。
逃げ出した事も、後ろめたいことも無かった筈だったのだ。
そして丁度、
一ヶ月後のある日。七瀬は後ろめたい事と、逃げ出した事、両方とぶつかった。
ある、雨の日だった。
七瀬は急に降り出した雨に打たれながら、体育で使った道具器具を抱え、倉庫に向かって走っていた。
ーーー委員長も楽じゃないね。
苦笑を漏らしながら、なんとか倉庫にたどり着き、一息吐き出した所で、話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、どうする?今から行っちゃう?
今なら間に合うかもよ!」
「えーっ、でもミサこの前犯ってもらったばっかじゃん。彼は、最低でも一ヶ月置かなきゃ連続では抱いてもらえないって話でしょ?」
「分かってるけど、今目の前に転がるチャンスをみすみす放り捨てるわけにはいかないじゃん!?
あの御船くんがーーー。」
思考が止まる。
動きと、ついでに心臓まで止まりそうになった。
たったひとりの男の名前。
御船くんがーーー?
七瀬は息を潜め、倉庫裏で喋っている女子達に気付かれぬよう、そっと耳を澄ました。
「御船くんがね、保健室で一人で寝てるのよ。
先生は用事でいない。
鍵は御船くん以外が来るまでは開けっ放しにしておく。
これが、どういう意味か、わかるでしょ?」
「まあ、そりゃねぇ…
...だけどね
ミサあんまり、
彼に深入りするのはやめた方が良いよ。
彼...時には男も抱くらしいけど、
相手の女の事なんてこれっぽっちも考えてない、
まんまヤるだけ男よ。
見てくれはそりゃ、恐ろしいくらいの魅力的で妖艶だけど...
でも...最高でも一回だけにしといた方が良いって。
ハマって泣きを見るのは必ずアンタよ。」
冷ややかな声が雨音をかいくぐって倉庫に届いた。
ミサ、と呼ばれた女子の方はその声に苛立ちを露わに声を強める。
「分かってるわ!!そんな事。
でも、やってみなくっちゃ
男女の関係なんてどうなるか
わかんないでしょ!!
あの人は早い者勝ちなの!!勝負してみなきゃ始まらないわ!!」
急にフッと声が止んだと思ったら
次の瞬間水たまりを蹴り、渡り廊下を走って行く音が聞こえた。
残されたもうひとりも、
呆れたようなため息を吐き、後を追うように、
雨の中を小走りに走り去っていった。
ーーー残されたおれはというと…、
七瀬は、重くて厄介でぐるぐると複雑な感情に取り憑かれていた。
早く教室に戻って、ジャージから制服に着替えねば。
休み時間なんてあとわずかもない。
早く教室に戻らねば!
早く…
七瀬は倉庫を出て、雨の中をのろのろ歩き、
思いとは裏腹に、渡り廊下をゆっくり進んでいった。
この日、後ろめたい事と逃げ出した事に、ぶつかった…、と言ったが、
七瀬はみずからぶつかりに行ったのだ。
あの男のいる保健室へと。
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