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革命の薔薇にしおりをはさみました!
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Vivre dans la révolution~革命に生きて
革命の薔薇
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「政府の命令です。ルイ・シャルル王太子と離れて暮らしていただきます」
7月3日、タンプル塔。
関係者からきつく言い渡されたマリー。
左右には取り巻きもしっかりとついている。
「我が子をわたくしから取り上げるのですか?」
関係者はマリーからルイ=シャルル王太子を強奪する。
マリー=テレーズ王女はエリザベート内親王が後見人として決定している。
悲痛な叫びがただただ・・・
「お母さま、いやだ!!!」
「ルイ=シャルル!!」
愛する子供と別れさせられることは、マリーにとって精神的苦痛そのものだった。
******
「なんだって!?マリー様がコンシェルジュリ行きになったって!?」
ディディエとティエリのもとに、ジャン=フランソワがやってきた。
そこには、ジャン=ミシェルとジャン=クサヴィエ、クレリーも一緒だった。
「なんとか、助け出すことはできないのだろうか・・・?」
「無理だ・・・コンシェルジュリはギロチンまでの控室といってよいだろう・・・」
一か月後、コンシェルジュリに移送されたマリー。
マリーは未亡人になり、喪服を身にまとっていた。
そして、机の十字架に向かって、祈りを欠かさなかった。
精神をきたしながらも、持ち前の気高さでなんとか乗り越えていた。
王妃から囚人番号280となった。
「王妃様。わたくしは、ロザリーと申します」
25歳のロザリー・ラモリエールがマリーの世話係として就任してきた。
マリーの力になりたい、と志願してきた。そして・・・
「ソフィー・ルジュリーです」
******
「無茶なことをするな!君も処刑されるぞ!?」
ディディエはソフィーの行動に大反対した。
「可愛い王太子様を強奪されたのよ!黙ってみてられるわけがないわ!」
ソフィーは聞く耳持たない。なんとかして、ソフィーの父シャルル=アンリに話をつけなければ。
下手をすると、ルジュリー家の傷がつきかねない。
*********
そして、10月14日。マリーは裁判をかけられることになった。
前代未聞の裁判は一目でも見ようと、大勢の人が駆けつけていた。
そんな中、マリーは毅然とした態度で革命裁判に臨んだ。
人々から矢のように向けられる憎悪の視線が前身に突き刺さった。
美しく透き通った白い肌は荒れ果て、豊かなプラチナブロンドの髪の毛も白髪になり、老婆のようにやつれ果てたマリー。
ここに至るまで、マリーはあらゆるもの失っていた。
このとき、心の中にあるものはただひとつ。
「王妃らしく、気高く名誉ある最期を迎える」
何もかも奪われながらも、マリーの気高さは奪われることはなかった。
マリーの品格は、いかなるものであっても、決して揺るぐことなく、法廷に集まった人々を圧倒していた。
マリーは毅然として法廷に立ち向かった
。
「わたくしは、マリー・アントワネット・ド・ロレーヌ・ドートリッシュ。37歳です」
本名を胸を張って言った。
そして、マリーの裁判が執り行われた。
「王妃の莫大な浪費」
「チュイルリー宮殿から国外脱出」
「革命反対派」
「カーネーション事件」
と主な尋問だった。
理不尽で容赦ない偏見にも屈さないマリーは、常に冷静さを保っていた。
裁判官の尋問にもきちんと返答した。
そして、その間も、王妃としての品格や威厳も失わせていなかった。
証言は一方的なもので、憎しみに満ちた発言だった。
そう、見せかけの裁判。判決はすでに、決まっていたのだ。
どんな手を使っても、マリーを有罪にしたかった。
三日間の見せかけだけの審議は終わった。
マリーの判決が言い渡された。
「被告人、マリー・アントワネット元王妃、有罪判決と言い渡す」
民衆はマリーの首を求めていたのだ。
マリーは判決を受けても、凛とした姿勢を崩さなかった。
「・・・ああ・・・これで、長い苦しみから解放される・・・」
そして、処刑前7時間。
午前様にかかるとき、体力が奪われたマリーはそれでも、自らに鞭を打ってでも、遺書を書いた。
看守に蝋燭二本、紙とペン、インクを求めた。
マリー=テレーズ王女、ルイ=シャルル王太子、義理の妹エリザベートへの遺書。
「エリザベート、これはあなたへの最後の手紙になります。わたしの受けた判決は、国王陛下に会いに行くように、というもの。罪人として処刑されるのではありません・・・哀れな子供たちをのこして、逝くことだけが心残りです・・・マリー・テレーズ、ルイ・シャルル、決して、人を憎んだりしてはいけません。そして、エリザベート、いままで有難う・・・」
しかし、その遺書は渡されることなかった。翌年、エリザベートも処刑されたからだ。
マクシミリアン・ロベスピエールがその手紙を保管したまま、自身も処刑されたのだ。
その手紙は、死後30年の月日が経ってから公開された。
そして、その朝・・・
「王妃様、おはようございます。出発まで、何をお召し上がりになられたいのでしょうか?」
「もう、何も欲しくはありません」
「それはよくありません。何かをお召しあがりにならないと、自分に負けてしまいます」
ロザリーとソフィーは涙ながらに懇願した。
「ブイヨンスープを貰います」
「はい・・・」
ロザリーが持ってきたスープを一口二口を口に運んだ。
生涯最後の食事だった。
そして、ロザリーに手伝ってもらい、身支度を整えた。
喪服から白い服に着替えた。
今日、ここを出ると、決して帰って来ることのない死の旅だった。
マリーは最後こそ、気高く王妃としての誇りを胸に、最後の時を迎える。
処刑前、マリーは、処刑の妨げにならないように、長い髪を切られた。
そして、コンシェルジュリから荷車で刑場に向かった。
オーストリアから輿入れしたときは、シンデレラのような豪奢な馬車。
そのときは、宝石やドレス、沢山の侍者や侍女、執事たちに取り囲まれていた。
ルイ16世が処刑されたとき、ルイ・シャルルと引き離されたとき・・・
全てを奪われたマリーは、そのとき、自分が何者であったかを見出せたのだ。
12時前・・・いよいよ、革命広場に到着しようとしていた。
民衆たちは・・・
「くだばれオーストリア女」
「革命万歳!」
「裏切者!」
容赦ない罵声がマリーに飛び交ってきた。
遂に、マリーは断頭台に上った。
誰の力も借りず、自力でしっかりと立ち上り・・・
最早、マリーは民衆の憎しみも感じなくなっていた。
パリの風景を見たマリーは、国王と過ごした楽しかった日々、オーストリアから輿入れしたとき、お互いに惹かれあった・・・そんな日々が走馬灯のごとく過っていった。
「もう少しの辛抱で、安らかな死がやってくる。あの世では、国王陛下、お父様、お母様が待っているに違いない。わたしは罪人ではない。喜んで、死んでいけます」
マリーはアンリ・サンソンに、自らの身体をゆだねた。気高く、取り乱したりしなかった。
背筋を伸ばして、正面を見つめる姿・・・
マリーはボンネット帽を自ら、床に落とした。
そのとき、サンソンの脚をうっかりと踏んでしまったようだ。
「ごめんなさいね、ムッシュ・サンソン。わざとではありません・・・あなたの靴が汚れなくてよかった」
マリーはそのとき、育ちの良い言葉が出てきた。
「お願いいたします、ムッシュ・サンソン」
マリーはいよいよ、この世とお別れの承諾をした。サンソンはそのとき、涙ぐんだほどだった。
しかし、悲しみをこらえなければいけなかった。自身も反逆罪に問われてしまうから。
そして、マリーの首に刃が鈍い音を立てて落とされた。
1794年10月16日、12時15分・・・38歳の誕生日を前に・・・
執行人のサンソンはマリーの首を叩く掲げると、
「共和国、万歳!」
その叫び声は、秋の空に高く昇って行った・・・
*****
作者yunaより。
マリーアントワネット・アントワネット王妃は、ギロチンの露と消えました。
しかしながら、マリーが処刑されても、人々の生活が楽になるわけがありません。
ロザリーの同僚として、ディディエの幼馴染ソフィーがマリーの力になりたい、と危険を冒してまで、コンシェルジュリに潜入しました。
豊かで幸せだったころ、マリーは自分が何であることを見出せなかった。何気に過ごしていた。
そこで、すべてを失ったとき・・・自分が本当の自分は何なんだろうか…・とマリーなりに問いかけていました。
本当のマリーは、ひとりの人間として、母としてその威厳を保ちながら生き抜いた王妃だったと思います・・・
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