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「…俺らより、言う権利ある人が黙っていらっしゃるわけだし、さ。」
落合は…隣席の人間に努めて明るい微笑みを送ってやる。…どういう反応を返していいか、困り果てたが末の行動だった。
確かに、ここ最近の我妻は酷い。酷く執拗に…後輩兼部下の落合に八つ当たりする。
落合の会社では、新人社員は先輩に仕事を教わる。その“初めて”の相手が、落合にとっては現在オカンムリ中のあの人だった。
以降、落合の仕事は全てあの人に監視され、指導されてきた。几帳面過ぎるあの人の徹底指導についていけず、体調を崩したことも多々ある。
ぶっちゃけ、後輩には我妻の完璧主義についていけなかった。
万全を期するのはいい。だが、マニュアル上にない意識まで我妻は後輩に求めようとする。落合はよく言って大らか、客観的には…大雑把な性格で融通がきく方でもない。器用でも、上手く立ち回れる人間でもなかった。
だから、我妻にコテンパンにされる。詰めが甘いと叱責される。会社から泣いて帰った日やトイレで吐いて昼を口に出来なくなった経験だってある。
水越のオフィスチェアがきぃと小さく軋む。軋む音で、落合は我に返った。
「…お前はよく、あの鬼上司と平気で居られるな。」
顔面の筋肉が引き攣ってきた笑みを何とか保ちつつ、落合は答える。
「…必ずしも平気、というわけじゃないよ。」
胸の内では逐年の恨みが煮えくり返っている。
(いつか必ず見返してやる。下克上の機会を逃さないため、傍にいるだけだよ。)
男が矜持を傷つけられたのだ。見返りがないまま、おめおめと引き下がるわけにはいかない。
だから、落合は鬼上司の暴言に耐える。不条理な仕打ちにも耐える。怒りを爆発させたって、粉塵を浴びて凛と佇んでいる。
「それに、あの人だって、たまにかわいいところもあるんだよ??」
心にもないことを嘯いて、落合は会社のノートパソコンを開き、長引きそうな睨めっこを始めた…。
正午。オフィスにいる大多数が席を空ける中、落合は黙々と作業を続行していた。
《昼休憩抜きでやれよ。》
クソ我儘鬼上司様の決定は絶対だ。トイレだって、すぐに帰って来ないと嫌味が飛んでくる。時折痛む胃を片手で抑えつつ、落合は手を動かし続ける。
(ええっと…。計算は、これであっているな。数値も問題なし…っと。)
画面上の表を凝視していると、肩越しにひょっこりと顔を出してくる小柄な人物がいた。落合のパソコン画面を射るような鬼の双眸。…落合の臓物の底が冷え冷えしてくる。
「…あ、我妻さん。」
我妻の手が部下のマウスを握るものと重なる。彼の瞳がすっと細められ、鋭利さが増す。
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