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★こんなにもつらいのはあなただけじゃないなんて、聞き飽きた世界でにしおりをはさみました!
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★★★★★★ 君が悲しみに泣き叫んだあの夜も、どこかの誰かは愛に癒されていたんだって、 ☆☆☆☆☆☆
★こんなにもつらいのはあなただけじゃないなんて、聞き飽きた世界で
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★こんなにもつらいのはあなただけじゃないなんて、聞き飽きた世界で
好きな人に好きって言われたら、無敵。昔読んだ少女漫画に書いてあったセリフは、やはり漫画の中だけで通用するものらしい。
現実世界には太刀打ちできない。
「あー、やっぱ。おまえと呑む酒が一番美味い」
そう言って笑う大学時代の先輩。社会人になってからも、愚痴や相談を聞いてもらったり、お世話になっている。彼の左手。もうすっかり馴染んでしまった、薬指の指輪は鈍く光る。まるで僕を睨み付けるように。
――――呑みに行こうぜ。俺、離婚するかもしんね。
そう言われて、お互い仕事を終えて、待ち合わせの居酒屋。個室で向かい合って、話すのはまず仕事のこと。
それから、大学時代のサークルメンバーのこと。
奥さんとどうなったんですか。離婚するって、本当ですか。そんなことは聞けないから、僕はいい後輩のふりして酒を呑んでいる。
「おまえ、飲んでも顔色ひとつ変わんねぇなあ。俺駄目だよ。やっぱ年取ると弱くなるんかな」
違います。緊張してるんです。あなただって取引先との接待で、べろんべろんに酔ったことないでしょう。
そうやって柔らかく笑うから、好きって言ってしまいそうになるのをこらえてるんだ。触りたい。僕をあなたの一番にしてほしい。あなたには理解できないだろうけど。
「…………嫁が実家帰ってんだよ。おまえ、うち来てよ」
彼は情けない顔で笑う。
「何があったんですか?」
「…………」
答えはない。言えるほど彼の中でも整理されてないんだろう。
「…………行きませんよ。終電で帰りますからね」
「なんだよー、おまえ、俺のこと好きだろー」
「…………」
「…………」
「…………そりゃ先輩としては尊敬してますけどね」
「は、相変わらず嘘が下手だな。間があった時点でバレてんぜ。バカなやつ」
「…………」
「……そんな顔すんなよ。いじめてんじゃねえんだ」
「…………」
「なーあ」
「酔ってんなら帰りますね」
「………………………………おい、マジで帰んのかよ」
「…………」
「なーってば…………なあ。おーい………………悪かったよ、からかいすぎた、なあ待てって………………おい!」
万札を机に置いて鞄とジャケットを持ってあとはひたすらダッシュ。くそ、革靴って走りにくいな。人混みを縫うように走る。もっとだ。もっと早く走りたい。
息を切らして、胸が痛い。
駅につく。ゼーハー言ってる僕を見て周りの人がひいている。知るかばか。あー、息が。全然おさまらない。やっぱ、僕も年取ったのかな。
定期。出そうとしたらスマホが光った。ああ、あの人からの電話だ。いやだな。連絡先、全部消さなきゃ。
でもなんで僕はその電話に出てしまうんだろう。
「逃げんなバーカ」
「……………」
「泣くなよ、悪かった」
そう言われてようやく気付いた。あ、泣いてる。
「おまえ、今どこ」
「……駅前です」
「はやっ、なに、走ったの? そんなに俺のこと嫌だったのかよ、ははは」
「…………」
「頼むよ、さびしいんだって。うち来いよ」
「…………っ」
ああ、もう、嫌だなあ。
「……今からそっち行くから、待ってな」
「いや、です。もう会わない……」
「好きな人にそんなこと言うなよ」
「…………っ」
「なぁ、俺もおまえのこと好きだよ」
嘘だ。叫びたい。あなたはずっと僕のことなんか見てなかった。僕は、たくさんいる後輩のなかの、ひとりでしかなかった。今こうして利用してるのは、簡単に切って捨てれるからでしょう?
だいたい、あなたは男なんか好きにならないんだ。知ってる。僕はあなたのことを見ていたから。歴代のカノジョ。今の奥さんとの結婚式。あんなやわらかい声や笑顔は、仲良い友達にもしないくせに。ふざけんな。僕はあなたのさびしさを埋めるために生きてるんじゃない。奥さんの代用品じゃない。
「……おまえは?」
死んでしまいたい。好きにならなきゃよかった、こんな人。ずるいよ、神様。
「好きです、ずっと先輩のことが……」
好きな人に好きって言われたら、無敵。
じゃあなんで今が、一番つらくて苦しいんだ。
★終
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