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18歳以上ですか?
153にしおりをはさみました!
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153
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先輩が教えてくれた格安のスタジオには、いつも優しそうなじーさんと、元気な時はばーさんもいる。
「幸音ちゃん、やすくん、いらっしゃい。」
じーさん達も先輩につられて俺のことをやす君と呼ぶ。
もう、最近は否定するのも面倒で何言われたって特に突っ込んでない。
俺がここを先輩に教えてもらったのは、楽器を始めたての中一の頃で、まだ何も知らなかった俺に手入れ用の道具やリード、何から何まで揃えさせてもらった。
何となくやる気になれなくて学校を早退した日も
テスト勉強なんてほったらかして昼から出向いた日も
友達とカラオケ行ってきて暗くなった日も
俺が行くといつもじーさんは嫌な顔一つせず、練習用に
小さな部屋を貸してくれた。
両親共出張が多い勤務先で、なかなか家に帰ってこない時や、無性に寂しくなった時、こうして迎え入れてくれるこの場所とじーさんばーさんには家族のような特別な感情も抱いていたと思う。
「今日も一番奥でいいかい?」
「あ、今日は録音したいからちゃんと音の響くところがいいんだけど…。」
「あぁ、それなら手前から二番目の部屋を使うといい。」
「了解です!ありがとう!」
じーさんと先輩の話を遠目に聞く。
「え、録音?」
「そう。やす君の今の音を取っておいて、それから成長過程を知っていくのが楽しいんじゃない!初見でどこまでいけるかな~」
「え、いやちょっ……。」
やっぱり先輩はちょっと拗らせたガチ吹奏楽部の顧問みたいなところがある。
でもそのお陰で今回のソロも勝ち取れたと思っているし
先輩がこれがいいというなら本当にそれがいいんだろう。
でもさ。
「棒読み過ぎ!大根役者!抑揚くらい付けなさいよ!これ見よがしに書いてあるじゃないクレッシェンドおおぉー!!」
「そこ♯抜けてる。そんな不協和音聞いたらトゥーランドットも凍りつくわ!逆なの。溶かすの。わかる?!」
俺天才じゃないです。
先輩と違って楽譜見たらなんでも吹けちゃうほど器用じゃねっす…。
先輩の声は防音室の外にまで響いていたのか
窓からのぞくじーさんの俺を見る哀れみの目が痛かった。
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