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18歳以上ですか?
291にしおりをはさみました!
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291
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ナル先生の発した言葉の意味を理解した途端、急に吹き出る汗は嫌に冷たくて気色が悪かった。
おそるおそる目を通す。
場所は、県内。
ここからも、そう遠くはなく
車を走らせれば2時間はかからないだろう。
そこに、先輩が―――?
「ここに行くかどうかは高木君次第。
幸人を連れていくかも、一人で行くかも、全て君次第よ。」
いつになく真剣な表情のナル先生と目が合って、この紙切れが冗談なんかではないことを確信する。
「…どうしてこれを俺に―――?」
「幸人を、本当に心から自信を持って愛していると言うには
これが必要なんでしょう?高木君の中で。」
女性らしい白い手が、俺の持っている紙切れを指す。
俺には、これが必要………。
「ナル?何してんのこんな所で。あんた食べてる時は吸わないんでしょ?早くあっち行って。」
幸人が戻って来ているのに全く気が付かなかった。
それだけ動揺していたと言う事だろうか。
ナル先生に手を軽く引っ掻かれ、慌てて紙切れをポケットにしまう。
別に、幸人にばらさない様にだなんて言われていないのに。
隠す必要なんてないのに。
無意識的にそれを隠して幸人が元居た奥の席に通す。
「幸人とうまくやってる?って聞いてただーけ。」
「は?そんなのうまく行ってない訳無いじゃん。」
「あー、はいはい。
あんたからは腐るほど聞いてるからいらない。」
「マジでなんなの?むかつくぅーーー。」
ベッと舌を出してナル先生を追い返す幸人を可愛いと思っても、今の俺にはうまく笑うことが出来なかった。
いつだってナル先生は、俺の知らないところで俺の事を知っている。
それは時に心をかき乱され、時に助け舟となる。
それなら、今回は―――?
大した話もなく、特に大きく盛り上がる事もなく、時間になって店を出た俺達は、それぞれ二次会へ行くやら電車を待つやらでバラバラになった。
幸人はこの前のように、最後まで教師たちに付き合うつもりでいたようだが、俺はどうしても気分にならなかった。
「康明帰るの?」
「おー。…行きたきゃ一人で行って来い。」
「…そんな事言わないでよ。僕も帰るから。」
少し寂しそうな顔をした幸人に、気付いていないわけではない。
いつものように、キツく言いすぎた。ごめん。って言ってあげればそれでこの少し冷めてしまった空気は持ち直せるのに、それすらできない。
頭の中はもう紙切れ一つの事でいっぱいだ。
先輩は今も、この近くで生きている―――。
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