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18歳以上ですか?
292にしおりをはさみました!
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292
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氏原side‥₁
家に帰ってからも、康明はなんだか変だった。
僕が席を外して戻って来た時、
ナルと何か真剣な顔をして話をしていたけれど、
もしかして……いや、多分それが原因で間違いないだろう。
それからは何を話しかけてもどこか上の空。
康明とあまり関わりの無い人ならば、
それもいつも通りだと思うだろうが、僕にはわかる。
彼の事を知ってしまえば、彼はすごくわかりやすいんだ。
「康明、今日も泊って行っていい?」
「…んー、明日も仕事だろ。今日は俺も疲れたしさ。」
「……そっか。わかった!また明日ね?」
いつもなら、次の日が仕事だって構わず泊めてくれた。
むしろ寝坊しないし家の事も任せられるから僕が居た方が良いとも言っていた。
と言う事は、今日は言い訳をしただけで、
ただ一人でいたい気分なんだろう。
僕にももちろんそういう時はあるから、
自分の家に帰るのは何も問題はないのだけど
それならわざわざ僕を気遣うような言い訳をせずに、
一人で過ごしたいと言ってくれたらよかったのに。
あぁ、胸が締め付けられる。
この感覚、久しぶりだ。
康明が何を考えているのかわからない。
なるべく康明に僕の不安を読み取られないよう、
笑顔のまま彼の家を出て
エレベーターの矢印ボタンを押す。
夜も遅く、誰一人として乗り合わせないまま13階に辿り着くと、ガリガリと自分の腕を引っ掻いていたことに気付いた。
暗く、冷たい家に帰って即座に取りだしたのはスマホ。
ある人物に、メッセージを打ち込む事も面倒で、迷わず通話ボタンを押した。
一度では出なかったので、何度も、何度も、何度も。
『……もしもし?』
「康明に何言ったの。」
『…今運転中だから待って。』
「停まれるだろ。今すぐ答えて。」
『他の先生も乗せてるのよ。帰ったら折り返すから少し待ちなさい。』
ものの10秒で切られてしまったその画面を見ながら立ち尽くす。
ナルが嘘をつかない事は知っているし、電話越しに確かに賑やかな声が聞こえたから酔った教師たちの送迎をしているのも本当だろう。
自分の口から出た汚ない言葉遣いに少し驚いたが、
それだけ自分に余裕がなくなっていると言う事。
煩く音を立てる心臓に、静まれ、静まれと心の中で唱えながらナルからの折り返しを待った。
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