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1ー2にしおりをはさみました!
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1ー2
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ほの暗い何かに自分が包まれる。いつもいつもいつも孤独で誰からも愛されずただ自分の小さな身体を自分で抱き締める。
ポンッと金色の粒が跳ねた気がした。薄暗い黒のなかで唯一の色だった。顔を上げるとそこには音があった。
小さな妖精のようなその粒は悪戯に回りを駆け回り自分の手を引く。始めての友達だと思った。ずっと一緒にいるんだと思った。ずっと続くのだと思った。
でもそれは幻想だった。
花びらを散らすように黄金の光は失くなって変わりに闇となって弾けた。
また、また一人になった。
もっともっと深い暗闇になってなにも見えないくらいになっていって…ゆらりと揺れる銀色が光った。
黄金の王者のような輝きではなく鋭く敵を射抜き支えるそんな刺さる輝きだった。
王にはなれなかったけれど支えるくらいならばできるかもしれない。
そうして銀色の知識と物語に触れた。
蝋燭一本から出る炎のように淡く消えてしまいそうな光だったが決して輝きは失わなかった。
けれど今度は王者に、黄金の光に銀色は持っていかれてしまった。
また、また、また、また闇が深くなる。
もう、見えなくなる。
それから大分時間がたったと思う。
重い身体を起こした奏は持ち上げた頭がガンガンと鳴り響くなか床に脚をついた。
どうやらあのあと寝室のベッドへ身を投げたらしい。涙の痕跡が枕に染みついていてため息を一つこぼしリビングへと脚を運ぶ。
随分時間がたっていたような気がする。時計がないので確認しようが無いが颯がくるくると周りを周り見上げワンッと鳴いたことからお昼を大分過ぎているらしい。
「あ、ごめんな。今居れるから」
ドッグフードをカラカラと入れる音さえ煩わしくていつもよりも乱暴に入れてしまい、床に溢れ落ちる。
だがそれも気にはならなかった。音だけが大きく反響する。脳を支配する。
モノクロになったように世界が見える。でも音だけが暴力的なまでに煩く回る。
頭がぐらりと傾いた気がしてすぐに立ち上がった。耳を両手でふさいで家を飛び出した。
行き着いたのは静かで一つのベンチが木の影に隠れるお気に入りの場所だった。
影に隠れるように身を縮ませる。風の音だけが耳を誘う。
一つ、足音が近付いてくる。
顔を上げるのも億劫だと思っていたのにいきなり入ってきた音に反射的に反応してしまう。
「おっと、邪魔しちゃったかな?」
嗚呼、五月蝿い。
「隣いいかな」
五月蝿い、五月蝿い、五月蝿い…か…?
ゆったりとしたこころを包むみたいな、そんな声だった。暖かい春のひだまりのような太陽の木漏れ日のようなそんな色をしていた。
「あ、えっと、どうぞ」
おずおずとど真ん中に座っていた身体を右側に寄せる。来たその人はありがとうと微笑んで左側に座った。特に話すこともなくぼーっと空を見上げているとがさがさと紙袋から何かを取り出す音が聞え、音のする方へ視線を向けると一冊の本が袋から出ていた。
その表紙を見て目を丸くする。
買う寸ででやめた青木陽の新作だった。
「あ…あんた、それ…」
「え?ああ、これ私の新作なんです。今日発売で店頭に並んでいたので反省点とかも含めて買ったんですよ」
新作?誰の?何て言った?反省点?
「あお、青木陽だろ、それって…」
「え、ええ。ですから私のペンネームです」
ペンネーム?ペンネームとはなんだったか。脳がそんな質問を受け取り拒否をする。
続けた言葉はとっさに出た。
「ふ、ファンです!」
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