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*191.にしおりをはさみました!
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*191.
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やってしまった。…これはでも、仕方ないじゃないか。そういう流れだろう。いつからか始まった勘違いは解け、夢か幻とでも思えそうな信じ難い事ではあるが、佐々木が俺の事を…俺の、事を……。
だからこうなったって、今なら別に不自然じゃないし…世の中は許さないかもしれないけれど、わかってくれる人だってきっと居るさ。
あぁ間違いない。世界中探し回れば一人や二人は必ず。大丈夫、合意の元なのだ。そうだ。
「…暁人さん大丈夫??」
「あぁ…。」
「……ほんとに?」
今がどういう状況であるのかを説明しよう。
俺は佐々木と二人並んでソファに腰掛けている。ウレタンの丁度良い沈み具合に力が抜けて背中を曲げれば、ほんの数十分前、まだ外を歩いていた時は俺より下にあった佐々木の顔が随分と高くなった。
そう。俺達は現在、家の中に居る。………俺の家に。
しょうがない。しょうがないんだ。あまりに驚いたばかりに完全に語彙力は消え失せ、発せられる音はもはや「あ」のみ。
最寄り駅に辿り着き、佐々木の「降りましょ」に対する「あぁ」、駐車場まで何故かついて来た佐々木の「乗っていい?」に対する「あぁ」。そして、寄り道など出来る訳もない緊張の中、ほぼ無意識的に自宅へ到着したのち問われた「入っていいの?」に対する「あぁ」だ。
「…手握ってもいい?」
「…………あぁ。」
名を呼ばれるだけでこんなにも胸が苦しい。自ら望んだ事なのに。今度ばかりは記憶が無いは通じない。
普段は気にした事もない時計の針すら耳につく。それくらい、静かだった。
「暁人さん、俺の気持ち…どう思った?」
ゆっくりと自身の右手を覆う佐々木の左手は、多分俺の記憶している中では最も汗ばみ、冷たくて。朝からつけっぱなしの冷房が効きすぎていたかと疑ったが、それにしては珍しく頬の赤らむ彼の横顔が視界に入ってしまい、つい目を逸らした。
あの佐々木が緊張しているのか。初めて乗った客の車では迷わず荷物を後部座席に放って助手席を陣取り、初めて入る他人の家だろうと数分したらソファに寝転んでくつろいでいたような奴が。
「俺…やっぱり、諦めなきゃダメ……かな。」
「……お、俺は…っ。」
見えてもいない筈の佐々木が、今どんな顔をしているのか。想像するのは簡単だった。だっていつも、気づけばお前を見ていて、ふとした時思い出すなんて言葉じゃ嘘になる程に…お前のことばっかり考えていたんだから。
もしも振り返って、いい大人が騙されてやんの〜なんて意地悪く笑っていようものなら俺はもう一生人間を信じる事は出来ないだろう。
「冗談…なら、笑ってやれるうちに白状してくれ。」
「本気だよ。」
辞めてくれよ。冗談って言ってくれ。
俺なんかを好きだとか、本当にどういう神経をしているんだ。まだまだこの先明るい未来が待っている高校生の君が、選ぶべき相手じゃない。
冗談も笑えなくなれば、いつかつまらなすぎて泣けてくるんだ。勝手に本気にして、勝手に傷ついて、勝手に泣いて、勝手に苦しんで、勝手に君を嫌おうと努力する。
「わかった。…なら、俺も本音を言う。」
たとえ今が本気だったとしても、いつか君の目が覚める日は必ず来る。佐々木を嫌いたくなんかないから。
俺は大人だ。今回は驚きが勝りチャンスを逃してしまったが、法月の助けがあればきっとまた良い相手と巡り会えるだろう。
“佐々木の気持ちには応えられない。”
その一言で済むんだ。息を吸え。こんな俺に出来る唯一であり最後の、佐々木の為に出来る最善の方法。
「佐々、木の…気持ち………っ、ぁ…。」
言葉の代わりに出てくるのは、涙だった。
嘘つきと言われてもいい。お前の人生の妨げにならないのなら、どれだけ嫌われたっていい。その筈なのに。
「……っ、れもっ…き、だ……俺も…俺も、お前が好きなんだ……っ。」
もう、心の方は我慢の限界だったみたいだ。
毎日毎日溜まりに溜まっていた佐々木への大きすぎる気持ち。辛うじて表面張力で堪えていたそれが崩壊すれば、溢れる気持ちは抑えなど微塵も効かなかった。
仕方ないんだ。
認めるしかないんだ。
もう、無理だったんだ。
俺はこの世界でただ1人、お前だけが大好きなんだ。
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