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ちゃらお君の渇望にしおりをはさみました!
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ちゃらお君の渇望
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甘い瞳が恭弥を見ていた。はっきりとしなかった記憶の中のそれは今この瞬間に鮮烈に上書きされ、二度と忘れないのではないかと思わせた。
相手は動かない。ならばどうすればいいか?恭弥はなぜか知っていた。未だに顎に添えられていた手に首を傾けて頬を寄せる。チラリと窺う様に見下ろす男を見ればその目が僅かに細められた。
静は周りから見たら異常な光景だろうなと思いつつも暫く恭弥を撫で回していたが飽きられても困るな、と手を引いた。恭弥はその手を名残惜しそうに目で追っていたがはっと我に返ったような顔をして気まずそうに下を向いた。
(やっぱり意外だよな…まぁ俺からしたら好都合なんだけど。)
とりあえず加賀見に酒を貰おうとその場から離れようとするとツンと引っ張られる感覚に踏み出そうとした足を戻し振り返った。恭弥は無言で行かないでくれと懇願するように静を見上げていた。
「…酒貰ってくる」
そう言うと恭弥はやはり気まずそうにパッと手を離して俯いた。
(これ、ほんとに瀬戸恭弥か?)
そんな疑問すら浮かぶ程に恭弥らしからぬ行動を取っていた。初対面の時の恭弥は静から見てもちろん生意気そうな生徒であったし、ここ数日の恭弥を静は学校で観察していたためその印象があながち間違いでないことも知っている。
(俺にだけ…かな)
悪くない、と加賀見が酒を作るところを眺めつつ思う。その様子を見ていた加賀見が顔を嫌そうに顰めていたことに気がついても静は気にしなかった。
「そういえば、何日来てた?」
「…毎日」
「へぇ」
口端を釣り上げて笑う静に出来上がった酒を渡しながら加賀見が「本性出てるぞ」と忠告する。
「危ない危ない」
にこりと嫌味のない笑顔に変わった静に恐ろしいやつと呟いて片付けを始めた加賀見にもう用はないとばかりに静は背を向ける。その背の向こうに見える店の常連に内心で「頑張れよ」と激励を送り加賀見は奥へと引っ込んだ。
静が恭弥の元へ戻ると恭弥は密かに安堵の息を吐いた。そんな自分にらしくないとは思うがそもそも恭弥は"らしさ"がもうわからなくなっていた。友人や知人たちの前では親しみやすく人懐っこい笑みを浮かべ、それでいて飄々としていてそれを彼らは"恭弥らしい"と言う。しかし実際の恭弥は臆病で狡猾で自分を取り繕うのに必死な人間だ。幼なじみたち以外に心を許す者などいないし、他人を信頼などできない。その上幼なじみたちにさえ弱味を見せられないのだから、いつだっていっぱいいっぱいだった。
そんな恭弥が唯一息抜きのできる場がこういった一夜限りの相手を探す者たちが集う場所だ。誰も自分を知らず、深入りも詮索もしてくることはなく気が楽だった。
そんな場所で出会った男に恭弥は意識を向ける。黒髪黒目の嫌味のない笑顔を浮かべる男。綺麗な顔してるな…なんて考えながら自身の失態を振り返る。が、所詮は他人で自分を知らない男だと割り切る。割り切ってしまえば怖いものなど何も無い。そう冷静に考える。
恭弥は気がついていないが恭弥は普段はこういう場所での2度目はないのだ。一度寝たらそれきりでセフレを探しているわけではないと相手にもいつもはっきりと告げている。しかし今回は恭弥が望んで、待ち伏せしてまでの2度目だ。その時点で冷静も何もないのだが、それに気がついていない時点でお察しだろう。
(そう言えば、名前…)
思考に耽っていた恭弥が顔を上げて男を見るとやはりあの甘い目が恭弥を見ていた。逸らしたくなる顔を無理矢理とどめて恭弥は口を開く。
「名前…教えて」
その言葉に静は目を細める。
(やっぱり気がついてないか…眼鏡してないし直接喋ったこともなかったしな)
静の一挙手一投足が気になって仕方の無い恭弥は細められた目が褒められたわけではないと分かり聞いてはいけなかったか、と不安になる。その恭弥の心境を悟った静は問題ないとでも言うように恭弥の髪を耳にかけて顔を覗き込む。
「せい」
「せ、い?」
「名前」
静が答えると恭弥は『せい、せい…』と数度声には出さず唇を動かした。誰かの名前が気になることも、教えられた名前を忘れたくないと思うことも今まで一度もなかったが、無意識にそうしていた。
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