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六の巷 ー平塚為広ーにしおりをはさみました!
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六の巷 ー平塚為広ー
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こんな病み果てた人を頼る御仁。
私の印象はそれであった。
弟の主君じゃ。
信用せんでなんとする。
それでも、聞こえくるのは非難悪口ばかり。
こんな御仁に豊臣家が守れるのか?
時世そのものが家康に傾いておるというのに、この者一人で押し返すのか?
秀頼様はこんな者にご運を託すのか?
そう言うな。
治部一人で家康を押し戻すわけでなし。
我らが陣頭は景勝殿や輝元殿だ。
治部は将にすぎぬのだから。
と刑部殿は笑ったが、いざ戦が始まると、戦況は地獄絵図だった。
先に高台に陣取り、ぐるり敵を囲い込んで布陣したというに、小早川が、脇阪が、赤座が、小川が、朽木が。
寝返るだけではあきたらず、佐和山の城勇んで攻めたという。
早々に逝った我々は、不甲斐なかったな。
何をおっしゃるか。
我らほど、働いたものはおりますまい。
刑部殿がつと立ち上がる。
痛みもない。
膿みも垂れぬ。
死も、まんざら捨てたものでもないな。
笑みは潔く美しかった。
私のうたは、届きましたか。
届いた。
我のもちゃんと届いたかな。
はい。
それではゆくか。
はい。
平塚と、共に歩みゆく黄泉の道すがら。
少し遅れて左近も見ゆる。
治部は今しばらく来ぬであろう。
最後の最後まで戦うだろう。
それでよい。
敗北せしも、その志は後世に伝わるであろう。
そう思っているであろう、刑部殿の横顔を見つつ、私も今、黄泉路に入る。
弟はまだ現れぬ。
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