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必要最低限の荷物を持ち、僕はとあるマンションの前に立っていた。
僕の名前は日達英二(ひだちえいじ)、高校時代にバイトしていた飲食店で正社員として採用され、今年の春から社会人になる十八才だ。
高校卒業と同時に髪を茶髪に染め、校則では襟足より髪を伸ばしてはいけなかったが、今は気にせずに伸ばしている髪型。
男にしてはパッチリとした大きな目と、高校時代に背の順で並んだ時必ず先頭に立つ程伸び悩んでしまった身長がコンプレックスだが、今はそんな事を憂いている場合ではない。
荷物を詰め込んだ鞄を抱えながら、僕はマンション内のエレベーターに乗る。
ある人に指定された部屋のある階をボタンで押すと、僕は息を吐いた。
これから僕は本業である飲食店の仕事以外で、もう一つの仕事をする。だが、それをするには条件があるのだ。
その条件は、雇い主の部屋に住み込みをする事。それが理由で、僕は来た事の無いマンションに荷物を持って来たのである。
エレベーター内にある鏡で、僕は髪型や服装の確認をした。
(緊張する……)
エレベーターが目的の場所で停まり、僕は急いで下りる。
スマホの画面を見て、もう一度部屋番号を確認した。
メッセージの送り主は、幕尾扉(まくおとびら)……高校時代の先輩だ。
先輩は高校卒業と同時にプロの漫画家になり、世に出した作品は全て大ヒット。年内には先輩の描いた漫画が二作品、実写映画化とアニメ化が決まっている程だ。
そんな先輩から、僕が卒業した日に連絡がきた。
卒業してからは時々連絡を取り合うくらいの仲だったので、卒業を祝ってくれる内容のメッセージかとスマホを見てみれば、想像とは違った内容に驚いたのを今でも覚えている。
『住み込みのアシスタントを探している。お前に頼みたい』
先輩は素っ気無い人で、比較的明るくて人懐っこいと言われる僕とは、対照的な人だった。
そんな先輩に、僕はどうしようもなく惹かれていたのだが……その気持ちを本人に伝えるつもりは無かったし、先輩は気付きもしていなかったと思う。
先輩の住んでいるマンションは、僕の実家から少しだけ離れている。けれど、僕の就職先からは徒歩圏内にあるマンションだった。
親と相談した後に、住み込みのアシスタント業を了承した……というのが、ここにくるまでの流れ。
就職先はバイト先だったから、特に新鮮味は無いけれど、正社員として働くのだから身が引き締まる。
そして、大好きな先輩と一つ屋根の下で生活……そんな新生活に、期待と不安が混ざり合う。
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